253 ハルナ平原会戦②
敵の歩兵部隊も動き始めた。中央部が突出して左翼と右翼がそれに引っ張られるような形で進んできている。魚鱗の陣かな?
航空部隊が開けた穴から浸透し、左翼と右翼を半包囲するつもりだろう。いわゆる、一点突破全面展開だね。
しかし、こちらの中央部前衛部隊はそれほど被害を受けていないし、命令系統も混乱していないのだ。これは敵にとっては大誤算だろう。
味方の魔導師部隊が魔法攻撃を行い、それを敵が防御結界装置で防ぎつつ剣や槍を装備した部隊が突撃してくる。こちらも前衛部隊が陣地の恩恵を受けつつ、敵の攻撃を防いでいるね。どうやら持ちこたえられそうで安心した。
敵もこの一戦のみで無理をする気も無いのだろう。徐々に引き始めた。
ここで私は大変なことに気付いた。くっ、気付くのが遅いよ。敵は墜落した航空魔道具とパイロットを回収しながら撤退しているじゃないか。
敵の航空魔道具が得られれば弱点を調査することもできるけど、逆に回収されるとこちらの攻撃手段を推測されてしまう。あと、墜落したパイロットの中に生存者がいれば、尋問によってパイロット育成状況を知ることもできたんだけど…。
こうして最初の一戦が終了した。敵はこちらの防御陣地から2キロメートルほど離れた位置に陣地を構築し始めている。かなり近いな。走れば10分くらいの距離か。
で、結局のところ撃墜した航空魔道具とパイロットを確保することはできなかった(全て敵が回収していった)。
こちらの被害はそこそこありそうだけど、負傷者のみで死者は出ていないみたい。うん、死んでさえいなければ治癒魔道具で対処できるから大丈夫。
司令部横の野戦病院には続々と負傷者が後送されてくる。トリアージを教えておいたので、軍医たちが運ばれてくる負傷者に黒・赤・黄・緑の札を胸の上に置いていっている。黒(死亡)は無くて、赤(重篤で命の危険がある)や黄(重傷だが命の危険はない)が多いな。緑(軽傷)がいないのは、多分ここに来ていないだけだろう。
20台の治癒魔道具が優先度の高い患者から使用され、次々に完治していっている。赤の患者ですら問題なく治癒できているので、軍医たちも驚いているね。
野戦病院の状況を眺めていた私にシゲノリ大佐が話しかけてきた。
『サクラ、君たちのおかげで最初の戦闘はどうやら引き分けに持ち込めたようだ。感謝する』
『いえ、私の見込みが甘かった点は反省しなければなりません。兵力数は予想外でしたし、なにより三次元機動を行う相手がこれほど厄介なものだとは思いませんでした』
これを聞いたミカ様が発言した。
『シゲノリ大佐、私の射撃が拙いせいで被害を出してしまいました。ごめんなさい』
『いやいや、アカネちゃんはすごかったよ。私なんか1機も当てられなかったし』
『そうだ、アカネはよくやった。アカネのおかげで敵に一矢報いることができたからね』
私とシゲノリ大佐がミカ様を褒めたたえたけど、これは決して大げさじゃない。よくあれだけ撃墜できたものだよ。
航空戦の戦果をまとめると次のようになった。
・来襲した航空魔道具:100機
・撃墜した航空魔道具:13機(ミカ様が11機、アレンが2機を撃墜)
・投下されたファイアウォールの魔道具(通称、投下用魔道具)の数:91個
・投下用魔道具による負傷者数:127名
防御結界装置は5人に1個配備されているだけなので、どうしても完全に防ぎきることは難しい。それでも防御結界装置による対処を指示していなかった場合、400~500名くらいは負傷していたかもしれないし、それにより前衛部分に穴が開いた可能性は高いよね。
シゲノリ大佐も感心したように言った。
『敵の投下物体についての予想は完璧だったね。対処法を指示していなかったらと思うと冷や汗が流れるよ』
うん、本当に予想が当たって良かった。私も冷や冷やだったよ。