248 クルミと聖女
謁見の間に騒がしい声が近づいてきた。
『姫様、お待ちください。そちらに行ってはなりません』
『聖女様がいらっしゃってるのよね。どこかな?』
可愛らしい幼女が入室してきたよ。後ろから侍女さんかな?顔色の悪くなっている若い女性も入ってきた。
とことこと走ってきた幼女は私の目の前に仁王立ちすると問いかけてきた。
『あなたが聖女様ですの?私はクルミ。よろしくね』
えっと、姫様って呼ばれてたってことは皇帝陛下の娘さんかな?
『はい、聖女ではありませんが、グレンテイン王国のマリア・フォン・シュトレーゼンと申します。こちらこそよろしくお願い申し上げます』
『ええー?聖女様じゃないの?じゃあ、あなたが聖女様?』
今度はミカ様に問いかけてきた。
『いえ、聖女様ではございません。ミカ・ハウハと申します。お見知りおきを』
『おかしいなー。聖女様がいらっしゃったって聞いたよ?』
ここでようやく皇帝陛下が発言した。
『その子は余の娘である第三皇女のクルミである。騒がしくしてすまぬな』
3歳から4歳くらいかな?肩までの髪に天使のような可愛らしいお顔の美幼女だ。ただ、左腕に巻かれた包帯が違和感を感じさせる。まさかその歳で中二病ってことはないだろうから、何かけがを負っているのかな?
『クルミ様の左腕はどうされたのですか?』
『うむ、数日前の夜に寝所が火事になってな。ひどい火傷を負ったのだ。治ったあとも痕が残るほどのな』
皇帝陛下が痛ましそうに顔を歪めて言ったけど、そこまでの火傷ならまだかなり痛むはずだ。可哀想に。
私はクルミ様の前に歩み寄り、膝をついた。
『クルミ様、少しじっとしていていただけますか』
右手をクルミ様の左腕部分にかざし、魔法陣による治癒魔法であるヒールを発動させた。
『あ、だんだん痛くなくなってきたよ』
30秒ほど発動してから言った。
『どなたかクルミ様の包帯を外していただけますか?』
『うむ、それでは余が外してやろう』
皇帝陛下自ら玉座を降りてきてクルミ様の包帯を外し始めた。
『お父様、もう痛くないよ。なんだか温かくって気持ちが良かった』
包帯を全て取り去り、左腕の状態を確認したこの場にいる全員(アレンやミカ様以外)が、驚愕の表情を浮かべている。
『すっかりきれいに治っている。火傷の痕などどこにも残ってない…』
呆然とつぶやく皇帝陛下。うん、良かったね。
しばらくフリーズしていた皇帝陛下が再起動した。少し涙ぐんでいるようにも見える。
『ああ、聖女様、感謝の言葉もありません。本当にありがとう』
『お父様、この方が聖女様なんですのね?聖女様、痛くなくなったよ。ありがとう』
『聖女ではないのですが、とにかく治って良かったです。なお、今のは単なる治癒魔法でございます。この魔法を魔道具化したもの、いわゆる治癒魔道具を持参致しておりますので、後ほど献上させていただきます』
『いいや、そなたはやはり聖女だよ。「苛烈の聖女」の二つ名は伊達じゃないな』
私が言われたくない二つ名の筆頭をにやりと笑いながら言ってくる皇帝陛下。まぁ良いか。可愛い幼女が火傷の痛みに苦しむ姿なんて見たくないからね。