247 皇帝へ謁見(2回目)
うちの工房は現在とても忙しい。王国軍から飛行機械を10機ほど発注されたためだ。
一か月の製造数はわずか2台なので、五か月はかかる予定だね。さらにお兄様には、飛行教官として王国軍の中から選抜されたパイロット候補生を訓練するという仕事も依頼されている。
どうでも良いけど、1機あたりの単価は10億エントに設定された。値段が高いのか安いのかよく分からないけど、細かい原価計算をしていないことだけは確かだな。製造原価はそんなに高くないと思うよ。
この忙しい工房の事務方の幹部であるアレンや私がしばらく抜けることになるためその調整が必要で、王都を出発できたのは謁見の日から一週間後だった。
シュトレーゼン伯爵領やグランドール辺境伯領をこっそりと通り抜け(帝国行きは秘密だからね)、国境の検問所のうち王国側は陛下の命令書で、帝国側はシゲノリ中佐の権限で通過した。
そこには帝国の皇帝陛下直々の手配により用意された精鋭部隊が待ち構えていた。
『マリア様、アレン様、ミカ様お三方の護衛を務めさせていただきます帝国軍特務小隊49名並びに小隊長エイスケ大尉であります。よろしくお願い申し上げます』
ガルム語での挨拶だけど、私たちは三人ともガルム語がペラペラだから問題ない。
どうやら貴族子弟を一切含めず、平民のみで構成された部隊らしい。しかも剣や槍、あと弓の達人揃いとのこと。目についた数人を鑑定してみたところ、高確率で【剣術】【槍術】【弓術】の才能持ちだったのには驚いた。めちゃ頼もしいね。
『マリアと申します。こちらこそお世話になります。あ、この国ではサクラと名乗っていますので、そちらで呼んでください』
『アレンです。よろしく。僕もサネユキと名乗っていますので、その名前でお願いします』
『ミカと申します。偽名はアカネです。よろしくお願いします』
シゲノリ中佐も発言した。
『参謀本部シゲノリ中佐である。ただし、ここでは平民で民間人のヨシフルと名乗っているのでよろしく頼む。俺の妹がサクラで、サネユキはサクラの恋人、アカネが俺の娘という設定だ。俺は民間人という設定だから、この部隊の責任者は貴官ということになる。くれぐれもよろしく頼むぞ』
『はっ、お任せください。しっかりと護衛することをお約束します』
さすがは精鋭部隊。同じ『特務小隊』であっても、私が10歳のときに出会った『特務小隊』とは名ばかりの盗賊たちとは大違いだね。
私たち四人が乗るのが自動車である以上、足並みを揃えるために護衛の特務小隊のほうも自動車を用意してきたようだ(王国から輸入したのだろう)。
大型の五輪自動車が5台だ。うちの三輪自動車1台を含めて6台の自動車化部隊ということになるね。
まだ共和国の侵攻開始には時間があるとの判断により、まずは帝都ガルムンドに向かい皇帝陛下に拝謁することとなった。二度目の帝都だね。蒸気機関の研究開発もかなり進んでいることだろう。楽しみだ。
道中は何の問題も発生せず(悪徳領主に絡まれることもなく)、帝都に到着した。
通信魔道具で事前に連絡していたので、すぐに謁見がセッティングされた。
型通りの挨拶のあと、まずはシゲノリ中佐に労いの言葉がかけられた。
『シゲノリ中佐よ。よくぞこの三人を帝国にお連れしてきてくれた。その功績多大なるを鑑みて貴官を大佐に任ずる。今後も励むように』
『はは、ありがたき幸せにございます』
おぉ、昇進して良かったね。もう一つ上がれば少将、つまり将軍だよ。って確かまだ34歳って言ってたよね。めちゃ昇進が早くない?不敗の魔術師ヤン・ウェンリーかよ。もっとも奇跡のヤンは20代後半で准将だったけどね。
『さてマリア嬢、そなたがここにいるだけで我が国の負けは無くなったな。言うなれば、不敗の魔導師といったところか』
わぁー、その二つ名はダメです。パクリになります(魔術師が魔導師に変わってるけど)。
『もしくは常勝の天才でも良いな』
それもやばいです。ラインハルト・フォン・ローエングラムの二つ名です。てか、皇帝陛下って、まさか転生者じゃないだろうな。
『申し訳ありませんが、すでにいくつもの二つ名を持っていますので、新たな二つ名をいただくのはご勘弁くださいませ』
うん、辞退しておこう。異世界(前世の世界)からクレームが入るかもしれない。
『うーん、そうか?参考までにマリア嬢の二つ名を教えてくれぬか、アレン殿。聖女というのは知っているのだが』
『はい、マリアの最初の二つ名が「可愛い悪魔」で、次が「王国の至宝」、三つめが「苛烈の聖女」でございます』
『ほう、どれもマリア嬢らしい二つ名だな。くくっ、「王国の至宝」以外は悪口にも思えるが…』
もう、何で正直に答えるかな。横目で睨んでやったけど、アレンは涼しい顔をしているよ。むきー。
『ミカ嬢にも深く感謝するものである。そなたが帝国行きを主張しなければ、マリア嬢がここにいることはなかったかもしれぬ』
『いえ、恐れ多いことでございます。私も微力を尽くさせていただきます』
ミカ様は前回の謁見のときと比べるとガルム語が流暢になったものだね。まじで語学の天才だよ。