245 奇縁
せっかくなので少し雑談をした。なお、シゲノリ中佐は屋敷の客間に泊まってもらうことになった。
「そういえば聞きそびれていたけど、シゲノリ中佐ってご結婚は?」
「もう34歳になりますけど、まだですよ。いや、もう半分諦めてますけどね。とにかく男所帯の軍で、しかもこれだけ出張が多いと…」
「今まで浮いた話は無かったんですか?」
「貴国の高等学院に留学した際、私が新入生のときの最高学年に初恋の人がいましたよ。4歳年上になりますが、とても美しい伯爵令嬢でした。彼女は私がガルム帝国からの留学生だと知って、グレンテイン語を教える代わりにガルム語を教えて欲しいと言ってきたのですよ。言語学にとても興味がある方でした」
ん?言語学に興味のある伯爵令嬢?どっかで聞いた話だな。
「その伯爵家の家名は覚えていますか?」
「ええ、忘れもしません。シャンポリオン家ですよ。マリア嬢ならご存知ですよね」
「あー、もしかして伯爵令嬢のお名前はシャルロッテさんですか?」
「おお、マリア嬢のお知り合いですか。その通りです。今ではどこかの貴族家に嫁がれて、幸せに暮らしておられるのでしょうね」
「そうですね。ある意味幸せなのかも。あ、ちょっと失礼します」
私はいったん応接室を出てから、部屋の外に控えていたメイドさんにあることを依頼した。
しばらくしてから応接室の扉がノックされた。
「シャルロッテです。お嬢様、お呼びとのことで参上しました」
「どうぞ、入ってください」
シャルロッテさんは職人らしく作業着だけど、相変わらず可愛らしい。もう38歳かな?とてもそうは見えないよ。まだ20代くらいに見える。
「シャルロッテさん、紹介します。こちらガルム帝国軍参謀本部のシゲノリ中佐です。シゲノリ中佐、こちらはシャルロッテ・フォン・シャンポリオン伯爵令嬢です。まぁ初対面ではないでしょうけど」
二人とも絶句して見つめ合っているよ。こんな漫画や小説みたいな展開ってあるんだねぇ。世間は狭いな。
「お、お久しぶりです、シャルロッテ様。覚えておいでですか?」
「うん、シゲノリ君だよね。懐かしいな。元気だった?」
「はい、おかげさまで。先ほどのマリア嬢のご紹介では伯爵令嬢とおっしゃっていましたが、ご結婚はされていないのですか?あ、すみません、不躾な質問をして」
「いえ、大丈夫ですよ。結婚は一度もしていません。実家からは半分勘当されてるような状態です。でも今はここの工房で魔道具職人として働かせていただいてますのでとても幸せですよ」
そうだ!明日は休日だし、二人とも積もる話もあるだろうからデートでも勧めてみようかな。
「陛下との謁見は調整が必要なので、とりあえず明日はシャルロッテさんがシゲノリ中佐を案内して、王都観光でもしてもらおうかな。二人ともどうかな?」
「はい、私は大丈夫ですよ。しっかりとご案内させていただきます」
「私も大丈夫です。シャルロッテ様のお手を煩わせて申し訳ないのですが」
ここでミカ様が爆弾を投下した。
「お父さん、良かったね。美人とデートだからって鼻の下を伸ばしちゃダメだよ」
「え?お父さん?え?ミカ様のお父さん?」
シャルロッテさんがめちゃくちゃ混乱している。
「あー、嘘だから。帝国を旅したときの嘘設定ね。シゲノリ中佐は独身だよ」
ミカ様が悪い顔をしているよ。ミカ、恐ろしい子…。