242 義勇兵
アメリーゴ共和国が新兵器である『航空魔道具』を世界（と言っても、この大陸内限定）に発表した。さらにガルム帝国に宣戦を布告し、国境の砦を占領したことも。
どうやら我が国にも再度の同盟の打診があったようだ。ともに悪の帝国と戦おうということだろう。陛下は熟慮すると返答したみたいだけど、本音はお断りだぜって感じだろうね。
せっかく講和の仲介を行ったこちらの顔に泥を塗った共和国は信用できないっつーの。
まぁ共和国側の大義名分としては、ファインラント亡命政府を現在のファインラント領に戻してファインラント王国を復活させるってことらしいけどね。間違いなく本気では考えてないだろうけど。
かの国は露骨な拝金主義だからね。商人の利益こそが国益という国なんだよ。そこに世界平和などという大義は無いよ。
ただし、我が国が帝国と同盟を結んで共和国と戦うことができるかというと、それも難しい。そんな味方をほいほい変える国が他国から信用されるわけがないからね。
まぁ、個人的には帝国側に手助けしてあげたい気はするけど。なにしろ、帝国軍のシゲノリ中佐はヨシフルお兄ちゃんだしね（設定上）。あと、ミカ様が将来的には帝国貴族になる予定だし。
義勇兵としての参戦ならば大丈夫かと言うと、それも貴族としての立場を考えると難しい。貴族であることを隠せばいけるかもしれないけど。
ふむ、あくまでも一時的にだけど、ヨシフルお兄ちゃんの妹のサクラとして手助けしようかな。金髪を茶色か黒色に染めて口元をマスクで隠せば、誰も私だと気付かないだろう。
飛行機械のお披露目飛行を王宮で行う際、陛下に奏上してみようかな。もっとも、許可されるかどうかは分からないけど。
私はミカ様とアレンを自室に招き入れ、心情を打ち明けた。
「ミカ様、アレン、私は身元を隠して帝国側に付こうと思うのですが、どう思います？」
「もちろんマリア様の行くところが私の行くところです。ともに参りましょう」
ミカ様ありがとう。ただ下手したらファインラント亡命政府と戦うことになるかもしれないよ。でもミカ様の精密射撃装置は、対空戦闘において唯一の切り札なんだよね。
「僕は火中の栗を拾うような行為には反対だ。そもそも陛下がお許しになるはずがないよ」
うん、アレンの予想通りになるかもしれないね。でも分からないよ。案外すんなりと許可が貰えるかもしれない。
「アレンは無理についてこなくて良いよ。私とミカ様だけで帝国に行くから」
「出国の許可が得られるなら僕も一緒に行くとも。君をしっかりと護衛することを誓うよ」
ありがとう、アレン。本音を言えば、私も常に一緒に行動したいんだよね。
「でも共和国に対抗する具体策はあるのかい？」
「航空魔道具から投下した物体が何なのかが問題なんだよね。量産できるものなのか、できないのか…」
「地面で破裂して火の海に変えるというものだっけ？不思議な魔道具だね、いやファイアウォールの魔法かな？」
あ、そうか。ガソリンを入れた火炎瓶というイメージが強すぎて、魔道具の可能性を考えてなかったよ。
ファイアウォールの魔法を発動する魔道具をガラス容器に入れて、落下時の衝撃でガラスが割れることで魔道具のスイッチが入るようにしておけば…。あと地面と垂直に火の壁が出るはずの魔法を地面と水平に火が出るように改造しておけば良いんじゃないかな？うん、可能だね。落下時の衝撃に耐えるように魔道具を作るのは大変だろうけど。
「アレン、ありがとう。投下物体の正体が分かったかもしれない。でも私の推測通りなら量産化するのは難しいね。拾って再利用することはできるけど」
「そうか、航空魔道具の量産や操縦手の育成も難しいだろうし、空からの脅威はそれほどでもないかもしれないね」
ここでミカ様が発言した。
「航空魔道具の飛行高度はどのくらいなのでしょうか？」
「国境砦での戦闘時には５０メートルから１００メートルくらいだったみたいだよ。比較できるものがないから、よく分からなかったみたいだけど」
「その程度なら私が精密射撃装置で撃ち落とせると思います。お任せください」
うん、期待しているよ。
本当は飛行機械を帝国に持参し、前席に射手としてミカ様を乗せれば無敵状態になるんだろうけどね。それこそ大陸統一できるくらいに。
