241 共和国の侵攻
共和国には特に何の動きもなく、帝国皇帝の懸念は現実にならなかったのかな?と思っていたら、王国の密偵部隊から急報が届いた(ようだ)。
国王陛下と皇帝陛下の両方から通信魔道具での連絡が入ってきたのだ。いや、何で私に言うの?
国王陛下からの連絡は例の国境砦の帝国側の砦が共和国によって落とされたというもので、皇帝陛下からの連絡はまさにそれを裏付けるものだった。
さらに皇帝陛下からは戦闘詳報(それって国家機密じゃないの?)まで教えてもらった。
それによると以下のような状況が判明した。
・国境砦には1個軍(4個師団)を駐屯させていたのだが、共和国からの逆侵攻に備えてさらに1個軍を増強していた
・にもかかわらず、その2個軍(8個師団)は砦を死守できず、帝国領内に敗走した
・十字の形をした何かが砦の守備部隊の上空に飛んできて、何かをばらまいたそうだ
・ばらまかれた物体は地上で破裂してその一帯が火の海になった
・これにより砦の屋上にいた守備兵は敗走し、進撃してくる共和国軍への魔法攻撃が手薄になった
・さらになぜか砦後方にも共和国軍が出現し、砦の前後から挟撃されたことで砦の城門を破られ砦内部での乱戦になった
・なんとか7万人は脱出に成功したものの、1万人は死亡または負傷して捕虜となった
うーん、飛行機械から落としたのは火炎瓶かな?
でもガラス瓶の中身は何だろう?原油を掘り出して、さらに精製してガソリンを作ったっての?そこまで技術が進歩しているとは思えないんだけど。
あと、例の獣道が発見されてしまった(または猟師の誰かが教えたのか)ことで共和国の一部隊が山越えできたんだろうな。
『皇帝陛下、私は3年前に共和国側の国境砦を訪れたことがあります。同盟軍として派遣されている我が王国軍への魔道具の輸送任務です。その際、国境を山越えするルートを共和国の猟師に聞いたのですが、王国軍限りの情報として共和国軍へは教えませんでした。おそらくはそのルートを使われたのだと思います』
『ふむ、なるほど。それが砦の背面をついた部隊の正体か。まさか今回、貴国から共和国への情報提供は?』
『ございません。共和国が勝ち過ぎるのは、我が国にとって好ましい事態ではありませんから』
『くくく、相変わらずの正直者よのう。だからこそ好感が持てるのだが…。そこは我が帝国へ恩を着せるように立ち回るのが外交というものではないのかな?』
『いえ、私は王国の大使として、誠実こそが外交の本分だと考えておりますので』
単に面倒くさいだけなんだけどね。
『そうか。情報感謝する。砦が落とされた今となっては遅いのだが、理由が分かったことで原因調査が不要になったと考えればありがたい』
もう一つ飛行機械のこともお伝えしておこう。
『十字の形をした何かについてですが、我が国の諜報網で把握している情報をお伝えしておきます。これは国王陛下からも許可を得ておりますので、私の一存ではありません』
私は共和国の飛行機械についての情報を分かっている限り、皇帝陛下にお伝えした。
『うーむ、人間が空を飛べるのか。頭上からの攻撃というのはかなりの脅威だな。だが当然、マリア嬢には対抗策があるのであろう?』
『そうですね。我が国の攻撃用魔道具であれば、それほど高くない高度であれば撃ち落とせるでしょう。あと、飛行機械は我が国でも研究中でございます』
『そ、そうか。帝国が最も技術的に後れを取っているということだな。そなたが我が帝国に生まれていればなぁ。いや今からでも遅くはない。侯爵位を用意するゆえ帝国に来ぬか?』
『ご冗談を。私は国王陛下に忠誠を誓う王国臣民でございます』
『まあそうだろうな。貴国の王が羨ましいぞ。それで今後の共和国の動きをどう読む?』
だからなぜ私に聞くの?まぁ私の所見を伝えるくらい問題ないけど。
『そうですね。砦を落としたといっても帝国領内へ深く侵攻するだけの準備を整えているかが問題です。落とした砦を要塞化して、そこを拠点に徐々に支配領域を広げていくのではないでしょうか』
『ふむ、参謀本部の読みと同じだな。侵攻の時期はどうかな?』
『はい、おそらく来年春頃ではないかと愚考致します。飛行機械の量産化と操縦手の養成にはある程度の時間が必要ですので』
まぁあくまでも予想だけどね。もっと早くに侵攻を開始する可能性もなくはない。でも新兵器があっても、それが少数では意味がない。数が揃わないとね。