239 飛行機械の開発②
「お嬢様、回転翼というものの形状は、以前お教えいただいたスクリュープロペラに似ていますよね」
リヒャルトさんが聞いてきた。
「ええ、スクリュープロペラを細く長く引き伸ばしただけだね」
「回転運動には反作用が生じるわけですが、この反作用を抑える方法は船のスクリュープロペラにも応用できるのではないですか?」
おお、二重反転式の船への応用に気付くとは流石だな。
「船では大型になるとスクリューを取り付ける回転軸を2軸や4軸にするのよ。その際、右舷側と左舷側のスクリューの回転方向を変えることで反トルクを相殺すれば良いかな」
「なるほど。それにしてもお嬢様はそのような大型船を見てきたように説明しますね。いったいどこでご覧になったんですか?」
テレビやインターネットだよ。…とは言えないけどね。
アレンも食いついてきた。
「僕もマリアの博識ぶりにはいつも驚かされるんだけど、文明の進んだ天界から降りてきたって言われても納得してしまいそうだよ」
いかん、そういうことをルーシーちゃんの前で言っちゃダメだってば。
「そうでしょう、そうでしょう。それこそが真実なのです。アレン様もようやくマリアちゃんの本質に気付かれたようですね。マリアちゃんは天界の使者なのですよ」
ほらー、こうなるんだから。
まぁ『天界』という単語以外は正解だったりするんだけど…。
「そんなことよりテスト飛行をしっかり見てないと!」
私の発言に全員一斉に上空を見上げた。
飛行機械が上空100メートルくらいを優雅に飛んでいる。上昇・下降・前進・後退・左右旋回と様々なテスト項目を消化している真っ最中なのだ。
しばらくすると徐々に下降してきて所定の位置にぴったりと着陸した。良い腕だ。
複座だけどテスト飛行なので前席には60キログラムの重りを載せているだけだ。後部座席から地面に降り立ったのはテストパイロットを務めたお兄様だった。いや、お兄様がどうしても自分がやると言って聞かないんだもん。仕方なく許可したよ。てかCEO権限を振りかざしてきたので、許可せざるを得なかったよ。
「マリア、この飛行機械は素晴らしいものだよ。とても安定しているし、自分の思った通りに操縦できる。自動車の比ではないくらい面白い」
ちなみに、いきなりプロパイロット並みに操縦できるようになったわけではなく、最初は鎖に繋いで1メートルまでしか上昇できないようにした状態で操作を練習し、徐々に上昇限度を延ばしていったのだ。天才のお兄様でも今日のように自由自在に操縦できるようになるまでには一か月はかかっている。って早っ!
「では次は前席にも人を乗せて艦砲魔道具の発射テストも行いましょう。誰か希望者はいますか?」
ここにいるのはお兄様(操縦者)、アレン、ルーシーちゃん、リヒャルトさん、シャルロッテさん、そして私だ。私の問い掛けに顔を見合わせている皆。うん、やっぱ怖いよね。
なお、王都の中で飛行テストを行うと目立って仕方ないので、王都郊外のかなり広い草原に来ている。街道からも離れているので艦砲魔道具を撃っても大丈夫だ。
「では私が」
と言いかけた瞬間に全員の右手が上がった(お兄様以外ね)。
「マリアが乗るのだけは認められない。ここは僕が搭乗するよ」
「いえ、私がマリアちゃんの名代として、しっかりとその任を果たしますわ」
「技術者として自分の作ったものに責任があります。俺に乗らせてください」
「同じく技術者として私も立候補致しますわ」
順番にアレン、ルーシーちゃん、リヒャルトさん、シャルロッテさんの発言だ。
「うーん、希望者が多すぎる。だけど上空って、かなり怖いと思うよ。高い所が苦手な人はやめておいたほうが良いと思うけど」
私も少し足が震えるよ。高所恐怖症ってほどじゃないけど。
話し合いの結果、アレンに決定した。
「お兄様、くれぐれも墜落しないでくださいね。アレンも頑張ってね」
「おいおいマリア、僕のことは心配してくれないのか。ひどい妹だな」
笑いながら話すお兄様。いえ、お兄様のことは世界中で誰よりも信頼しておりますので…。
少し緊張した顔でアレンが飛行機械の前席に搭乗した。実は飛行経験があるのはお兄様だけなんだよね。アレン、大丈夫かな?
お兄様も乗り込み、すぐに回転翼2基が回転を始めた。
ほどなく上昇し始めた飛行機械は急激な機動を行うことなく、安定して飛行している。初飛行のアレンに気を遣ってくれてるのが分かる。
あらかじめ定めておいた目標に向かって艦砲魔道具を発射したのだろう。目標付近で爆発が発生した。
さらに連続して爆発が巻き起こり、問題なく発射実験が終了した。回転翼の風による弾道への影響は大丈夫みたいだね。