237 飛行機械開発の特命
陛下との会談後、特命で飛行機械の開発を行うことになった。
屋敷に戻った私は王命を伝えるべく、職人たちを工房新社屋の4階会議室に集めた。もちろんお兄様やお義姉さま、アレン、ルーシーちゃん、ロザリーちゃんなど工房幹部も同席している。
「マリア、王宮から戻ってからのこの招集は、陛下から何らかのご命令が下されたということかな?」
「はい、お兄様。その通りです。その話の前にリヒャルトさんにお聞きしたいのですが、四年前に話した飛行機械の開発ってどうなっていますか?」
「すみません、お嬢様。そのぉ、あまり進んでおりません。いえ、正直に申しまして、すっかり忘れておりました。仕事ではなく趣味の領域とおっしゃっていたので」
「ああ、別に責めているわけではありませんよ。進捗状況を聞きたかっただけです」
そうか、進んでいないのか。確かに開発が進んでいたら飛行テストの計画書が上がってくるはずだものね。
アレンが発言した。
「それを確認するということは、王宮から飛行機械の開発命令が下ったということかい?」
「ええ、実はここだけの話として秘密厳守でお願いしたいのですが、世界初の飛行機械の発明の栄誉はアメリーゴ共和国に取られてしまったみたいです」
「!!!」
全員が絶句した。特にリヒャルトさんが絶望したような顔になっている。うん、分かる。なにしろ世界初だからね。
私は現在判明している共和国製の飛行機械の形状やスペックを説明してあげた。
「うちの推進器を使っているだって?くそが!しかも安価な船外機から取り外して使うなんて、なめた真似してくれやがって」
工房長のクラレンスさんが激おこですよ。
続けてシャルロッテさんが不思議そうに言った。
「でも姿勢制御をどうやって自動化しているのでしょうか?まさか全てを操縦者の技量で行っているなんてことはないですよね?」
「うん、私もそれが最も難しい個所だと思う。要するに傾きを検知して、その傾きに合わせて四つの推進器の出力を自動調整する機構なんだけど、誰か良いアイディア無い?」
さすがに、この場ですぐにアイディアは出ないよね。この件は全員への宿題ということにして、とにかく工房の経営方針として、この飛行機械の開発にリソースを注ぐことが決定された。そりゃ王命だからね。
「実はもう一つご報告したいことがあります。一週間ほど前のことですが、私の通信魔道具にある連絡が入りました」
メイドのジョアンナには気絶から目覚めたあと、しっかりと口止めしておいた。なので、帝国皇帝から連絡があった件については、この時点では誰にも知られていないのだ。
「帝国と共和国は我が国の仲介で講和しました。ですが講和条件に不満を持つ者たちが共和国内で不穏な動きを見せているそうです」
「ああ、共和国の開発した飛行機械が継戦意欲を復活させたというわけか」
その通りです。さすがはお兄様、理解が速い。
アレンが続けた。
「共和国は講和条約を破棄して、帝国への逆侵攻を企図しているのかな?」
「うん、連絡を入れてきた方はその懸念を表明していたよ。ファインラント亡命政府を大義名分にするかもって言ってたね」
まぁ帝国ではなく、王国への侵攻という可能性もわずかにあるけど。
「連絡をくれたというその情報提供者は信用できるのかい?」
「ええ、アレン、あなたもよくご存知の人物よ」
「考えられるのはそうだね。帝国軍参謀本部のシゲノリ中佐じゃないかな?」
「違うわ」
「では帝国軍の師団長であるヨシテル中将だろう?」
「いいえ」
「…まさかとは思うけど、帝国の皇帝陛下なんて言わないよね?」
「正解!さっすが、アレン。良い勘してるー」
この問答を聞いていたほかの皆は目が点になっている。再度の絶句状態だ。いや、私もまさか皇帝陛下から通信連絡が入るとは思わなかったよ。うん、この変な空気は私のせいじゃない。