236 飛行機械の詳細
一週間後、私は再度王宮に呼び出された。
「マリア嬢、よく来てくれた。さっそくだが、この報告書を読んでみてくれるか」
陛下から手渡された報告書には共和国の飛行魔道具の詳細な情報が記載されていた。
そこには私の知りたかったことがほとんどあったよ。
・動力はうちの工房が製造している船外機から取り外した推進器であり、一機につき6台を使用する
・垂直離着陸が可能で、翼と呼ばれるものは見受けられなかった
・形状は人が座るブロックの下に四方に張り出した足となる部分があり、上には十字の形に支柱が取り付けられている
・上部の支柱の四つの先端には推進器が下向きに取り付けられていて、地面に向けて風を噴出する
・後方へ風を噴き出す推進器が座席ブロックの両側にあって、その調整により左右に方向転換を行う
・積載量及び最高速度は不明
・四つの上昇用推進器の調整方法も不明(人力か自動なのかも不明)
どうやらテスト飛行するのを離れた場所から望遠鏡で観察した感じかな?
問題は最後の部分なんだよね。これを自動化しないことには危なっかしくて製品にはならないのだ。
傾きを検出するジャイロとそれに連動して四つの上昇用推進器の調整を行う機構さえ開発できれば、同じものはうちの工房でも製作可能だ。
てか、推進器はうちのやつだし。
私が元々考えていた飛行機械は上昇に1台(下向き)、前後左右の移動に4台(横向き)の推進器を使うというものだった。
つまり1台の推進器で人間一人くらいは楽に飛行できるだけの推力はある。
それを上昇用途に4台使用しているということは、おそらく飛行機械本体を50キログラム程度だと仮定すれば、人間一人分の体重に加えて100キログラムくらいの荷物を運べるんじゃないかな?
横方向の移動に用いる推進器が2台ということはちょうど五輪自動車と同じだ。自動車や船外機では車輪や水の抵抗があるけど、空中では空気抵抗しかない。
これを考えるとおそらく時速100キロメートルくらいは出せそうだ。
ただこれを戦闘に用いる方法が分からない。
王国ならば艦砲魔道具や精密射撃装置や自動連射装置を搭載することでアウトレンジ(弓矢の届かない高空)からの攻撃が可能だ。
でも共和国には威力が弱く射程距離も短い攻撃用魔道具しかないはずだけどな。
いや、攻撃用途とは限らないか。航空偵察という用途では使えるね。その場合、装備するのは通信魔道具だけで良い。あと災害救助なんかにも役立ちそうだ。
「どうだ。シュトレーゼンの工房でも同じものは作れそうかな?」
「外観だけを真似ることは可能ですが、飛行中の姿勢制御の問題だけが厄介です。人力による制御で良ければすぐにでも作れますが、技術者としてそのような欠陥品を世に出すことはできません」
「なるほど。戦闘時の脅威度はどの程度だろうか?」
「共和国の持つ武器であればそこまでの脅威度はありません。我が国の魔道具で問題なく撃ち落とせるでしょう。帝国には少し難しいかもしれませんが」
そうなのだ。対帝国という観点では割と有効な兵器になるかもしれない。
共和国が講和を破棄して帝国に攻め込みたくなるのも少しは理解できるかな。少しだけね。