233 マリアンヌ・フォン・ノイマン
社会人になって4年目の春だ。
今年度は高等学院に新入生として私の知っている子が入学する。私が幼いころに家庭教師をしてくれたナタリア先生、その娘さんのマリアンヌちゃんだ。
先生とは今でも交流があるし、マリアンヌちゃんも弟ちゃんと一緒によく遊びにきてくれるので、他人とは思えないよ。
先生はうちの伯爵家への陞爵とアレンとの婚約の件でも、お祝いに駆けつけてくれたんだよね。ありがたいことです。
ちなみにマリアンヌちゃんはナタリア先生に似て、とても可愛らしい女の子だよ。学院でも人気者になるに違いないね。
工房や学院が休日でたまたまリオン君が遊びに来ていたときにマリアンヌちゃんが訪ねてきた。リオン君が来てから数分後のことだ。
「マリアお姉さま。こんにちは。帰国したって聞いて遊びに来たよー」
「お、マリアンヌちゃん、久しぶりだね。こちらへどうぞ」
私は応接室にマリアンヌちゃんを案内した。そこにいたリオン君を見てなぜか固まってしまったマリアンヌちゃん。あれ?初対面だっけ?
「紹介するよ。こちらはペリーヌお義姉さまの実弟のリオン君。ライアン男爵家の嫡男だね。で、こっちはマリアンヌちゃん。ノイマン準男爵家のご令嬢だよ」
「はじめまして、リオン・フォン・ライアンです。ノイマン準男爵家というとナタリア先生の娘さんですね。どうぞよろしく」
「は、は、はい。マリアンヌ・フォン・ノイマンでございます。こちらこそよろしくお願いします」
リオン君もやんちゃ坊主って印象から落ち着いた好青年って感じに変わってきたんだよね。もう高等学院の4年生になるんだから当然か。
マリアンヌちゃんは人見知りじゃなかったはずだけど、リオン君の前だとなんか落ち着かない様子だ。さてはミカ様と同じパターンか?ふふふ、恋敵誕生かもよ、ミカ様。
「リオン君は高等学院の先輩だから、入学してから困ったことがあったら色々と相談すると良いよ」
「はい!ぜひよろしくお願いします。リオン先輩」
来年はミカ様も高等学院に入学する予定だから、そうなるとリオン君が5年生、マリアンヌちゃんが2年生、ミカ様が1年生ってことになるね。ふふ、もてもてだな、リオン君。
「ねえ、リオン君、マリアンヌちゃんって可愛いよね?ちなみに私と名前も似てるし、貴族っぽくないところも似てるよ」
「マリア姉ちゃん、そういうことを本人のいる前で聞くなよな。…まぁ可愛いのは認めるけど」
おお、これは好印象なのか。ミカ様ピンチだよ。
リオン君もマリアンヌちゃんも顔を赤くしてるんだけど、まじでカップル成立しそうな雰囲気だ。
「ちょっと待ったー。リオン様、私は?私は可愛いですか?」
いきなり応接室に飛び込んできたミカ様が会話に割り込んできたよ。リオン君が来たとメイドさんに聞いて、自室で勉強していたのに飛んできたらしい。しかも、たまたまリオン君の最後の発言が聞こえたみたい。応接室の扉は開いたままにしているからね。
リオン君もマリアンヌちゃんも面食らっているよ。なお、マリアンヌちゃんとミカ様はすでに面識があるので初対面の挨拶は不要だ。
「ちょっとちょっとミカ様。はしたないですよ。まずはご挨拶でしょう?」
「はっ、そうでした。リオン様、マリアンヌ様、ごきげんよう。ようこそいらっしゃいました」
リオン君とマリアンヌちゃんも挨拶を返し、緊迫した雰囲気は解消して和やかな空気になった。良かったー、いきなりの修羅場かと思ったよ。って三角関係かよ。
「それでマリアンヌ様が可愛いのは私も激しく同意しますけど、私はどうですか?リオン様」
いや、その聞き方で可愛い以外の言葉は言えないだろうよ。半分脅迫だよ。
「はい、ミカ様も大変可愛らしいと思いますよ。もちろん僕にとっての一番は今でもマリア姉ちゃんですけどね」
おお、こっちに流れ弾が飛んできたよ。ほらミカ様もマリアンヌちゃんもジト目でリオン君を見てるよ。モテる男はつらいね。
まぁ、なんにせよ、こういう長閑な休日も良いよね。血生臭い世界から離れて、こうして平和を満喫できるのもこの国に生まれたおかげだな。
もっとも血生臭い世界には自分から進んで飛び込んでいるような気もするけど。