232 カール・フォン・シュトレーゼン
シンハ皇国の一件を片付けたと思ったら、もう年末だよ。成人してからは一年があっという間に過ぎていく。
私たちはいったんグレンテイン王国に戻ってから、来年の春にアメリーゴ共和国へ向かうことにした。もちろん帝国の皇帝陛下から依頼されたファインラント亡命政府の件でだ。
期間が空くけど冬場の移動は嫌だし、少しくらい自宅でのんびりしたいからね。ったく、我ながら働き過ぎだよ。
ルクス公国の防衛については、王国の練習船『カトリ』と『カシマ』がいるから心配いらない。ルクス公国政府との交渉で、公国の防衛を請け負う代わりに港の使用料を無料にしてもらったのだ。あと石炭や水などの補給物資についても公国側から提供されることになった。うん、公国と王国の両国にとってなかなか良い関係だと思う。
なお、帝国の部隊がどのくらいの規模で公国に残るのかは分からないけど、帝国籍の船も停泊していることから1個大隊くらいは駐屯するんじゃないかな?
再編されたルクス公国軍もいることだし、防衛面についてはおそらく大丈夫だろう。
私たちが王国に帰国し、陛下に今回の顛末をご報告した際、帝国への魔道具輸出の件についても相談してみた。ただ、やはり難色を示されたね。まぁ当然か。
これに関してはとりあえず保留にして、帝国側から何らかのアクションがあってから再考すれば良いだろう。帝国皇帝が国内の綱紀粛正を図ることができるかどうか、それ次第だからね。
謁見が終わり屋敷に帰ったミカ様と私はペリーヌお義姉さまに出迎えられた。屋敷に帰るのは半年ぶりくらいかな。
「お帰りなさいませ、ミカ様。お帰りなさい、マリア。ほらマリアお姉ちゃんですよー」
ペリーヌお義姉さまが赤ん坊を抱っこしていた。え?どこの子?いや、お兄様とお義姉さまの子か。…っていつ生まれたの?!
「先月生まれたの。元気な男の子よ。ほら抱っこしてあげて」
おお!感動だ。私が抱っこしてあげると、心なしか嬉しそうにしている(ように見える)。首がすわってないから少し怖いけど。
「可愛い!ねえ名前は?」
「カールよ。カール・フォン・シュトレーゼン。どうかな?」
「うん、良い名前だね。シュトレーゼン伯爵家の跡継ぎか。良かったね、お義姉さま」
本当に良かった。子供ができないと側室を設けたり、養子をもらったりと面倒なことになるからね。貴族にとって跡継ぎってのはそれほど重要なのだ。
私の隣でミカ様が目を輝かせて赤ん坊をのぞき込んでいる。
「ペリーヌ様、おめでとうございます。可愛い赤ちゃんですね」
「ありがとうございます、ミカ様。えへへ、そうでしょう。もはや天使ですよ」
さっそく親馬鹿の兆候が見え始めているね。でも本当に可愛いな。
そのあと、私は抱っこしていたカールをペリーヌお義姉さまに返し、帰宅報告を行うべくミカ様とともにお父様の執務室へ向かった。お兄様やルーシーちゃん、ロザリーちゃんは工房の新社屋のほうだろうな。あとで行ってみよう。