231 魔道具の輸出可否
屈辱に顔を歪ませたヨグルト少将が師団司令部へと別れの挨拶にやってきた。
『それでは我々は出港するが、残された者たちを虐待することなく人道的に扱ってくれることを期待している』
『貴国の第一陣の遠征部隊が行ったツケを支払ってもらうだけなので、それ相応の待遇を約束しますよ。再度の来航が遅れた場合、人数が半分くらいに減っているかもしれませんけどね』
にっこりと笑って答えてあげたよ。当たり前だ。ブラック企業かよって労基に訴えられるくらいの待遇で働いてもらうよ。まぁ嘘だけど(ちゃんと人道的に扱います)。
ヨグルト少将の乗る船が港を出て望遠鏡を使っても見えなくなると、一仕事終わったなって感じで気が抜けた。
このあと、9隻の船の分配を決めないとね。
今回の主役はどう考えても王国だ(ヒューラー船長とミカ様と私)。なので当然うちに多くの船が分配されるべきなんだけど、港を借りている手前あまり多くの船を貰っても困っちゃうんだよね(港の使用料も高くなるし)。
なので小破していない完動の船を1隻だけ受け取り、残りは公国と帝国で分配してもらうことにした(もちろん陛下の了承済み)。
ヨシテル将軍が本当にそれで良いのか?って念押ししてきたけど良いんだよ。王国の港に回航できるのなら多めに貰うんだけど、さすがに無理そうだからなぁ。
なお、複数の船がある場合、船名を付けないと船を特定するのに困るので、陛下の了承を得た上で私が二隻を命名した。
練習船だから一隻目(魔改造済み)が『カトリ』で、二隻目(今回貰う予定の船)が『カシマ』だ。
もちろん練習巡洋艦の『香取』と『鹿島』から名付けたんだけどね。名前の意味を聞かれたので、遠い異国の神を祀る施設の名前って答えておいた。香取神宮と鹿島神宮のことだ。
当然『カシマ』も魔改造したいね。なので、船長及び船員候補が王国から派遣されてくる際、防御結界装置と艦砲魔道具を一緒に持ってきてくれるように頼んでいる。
あと本来、技術派遣団の任期は三か月なのに誰一人として帰りたいと言う人間がいないため、そのままこの国に留まっているよ。そろそろ技術派遣団の第二陣が来るというのに困ったものだ。
それから数日後、ヨシテル将軍がシゲノリ中佐を伴って私の宿泊しているアザミさんの宿屋にやってきた。
宿の食堂には個室もあるので、そこでアレンとミカ様とともに会談した。
深刻な顔でヨシテル将軍が私に言った。
「大使閣下、一つお願いがあるのだが聞いてもらえるだろうか?」
「何でしょう?私にできることでしたら」
「うむ、貴国の船に搭載されている攻撃装置と防御装置なんだが、我が国へ輸出してもらうことは可能だろうか?いや、無理なお願いだということは重々承知しているのだが」
ああ、艦砲魔道具と防御結界装置だね。
私としては提供しても構わないとは思っているんだけど、貴族の9割が悪人という帝国内の状況から考えて、悪用されないか心配ではある。
「私は貴国の皇帝陛下やあなた方のような平民出身の軍人の方々については信頼しています。ですが、帝国貴族たちを信用することはできません。それが改善されない限り、提供を渋らざるを得ないですね」
シゲノリ中佐が口を挟んできた。
「それは言い換えれば、帝国貴族の問題を何とかすれば魔道具の輸出を考えてくれるということですか?」
「はい、我が国の国王陛下の許可が必要ですが、説得することは難しくないと思います。何だったら、治癒魔道具や通信魔道具の輸出も少数であれば可能になるかもしれませんね」
でも問題は帝国貴族たちだよな。悪徳貴族たちを一掃することが果たして可能だろうか?
難しい顔をしてヨシテル将軍が発言した。
「とにかく皇帝陛下に奏上して、貴族対策を図っていただくしかないな。シンハ皇国が再度侵略の意図をもって来航する可能性がある以上、時間的な猶予はあまり無いが…」
確かにそうだ。シンハ皇国の取るべき道は三つある。
1.おとなしく金銀財宝を持参して国交樹立を目指す
2.もはや来航することなく、捕虜たちを見捨てる
3.新兵器や新型船を開発してもう一度戦いを挑む
この3番目の可能性がある以上、備えは重要です。
私は確率的に1番が10%、2番が40%、3番が50%くらいじゃないかと予想している。
そういう意味ではヨグルト少将のシンハ皇国への帰国を許可したことは、後世の歴史家たちに愚策と評されるかもしれない。本当は帰国を許さないというのが正解だったのかもしれないけど、一応シンハ皇国にもチャンスを与えたいと思ったんだよね。甘いかな。