229 シンハ皇国第二陣の来襲
訓練のために外洋に出ていた帝国籍の船の一隻がシンハ皇国第二陣船団を発見したと、通信魔道具での一報が入った。やっと来たか。
現在は仲間のふりをして、港のほうへうまく誘導しているらしい。相手に言語による通信手段が無くて助かった。発光信号や手旗信号はあったみたいだけど、気付かないふりをしているとのこと。大丈夫かな?
なお、敵船団に所属する船の数は予定通り10隻だった。
私は通信魔道具を使ってヒューラー船長に港口付近に王国船を移動させるように命じておいた。
しばらく待っていると大船団が望遠鏡の視界内に入ってきた。そのまま船団は港に近づき、帝国船の先導で次々と入港してくる。
最後の船が港内に入った段階でヒューラー船長の王国船が港口に移動した。ちなみに王国船には防御結界装置を張り巡らせているので、魔法攻撃に対してはほぼ無敵と言っても良い。
港外に逃げようとする敵がいたら艦砲で撃沈する許可を与えているので、もはや敵は袋の鼠だよ。
一隻の敵船が接岸して縄梯子を降ろした。おそらく第一陣部隊の船が港に並んでいるのを見てすっかり安心しているのだろう。
ぞろぞろと降りてくる男たちは、全員魔導書を持っているけど武器の類は持っていない。第一陣の部隊と同じだな。
ヨシテル将軍が直接率いる1個小隊50名(全員が防御結界装置を四重展開)と私が急速展開して、降りてきた男たちを半円状に包囲した。
数人の男たちは魔導書を開いて魔法を撃とうとしたんだけど、太腿から血を噴き出して倒れ込んだ。おそらくストーンライフルによる魔法攻撃だと誤解しただろうけど、これはミカ様の狙撃だ。
100メートルほど離れた位置にある建物の3階から精密射撃装置で狙っているのだ。なお、アレンは護衛役としてミカ様と一緒にいる。
魔導書を開くと攻撃されるという法則性を理解した男たちは、動きが止まった。と、そこへ上陸部隊を掩護するためだろう、船の上からファイアボールが撃ち出された。
しかし、その火球は防御結界に阻まれ、私たちに何の損害も与えることはできなかった。
上陸した男たちはファイアボールの火球を見て勝利を確信したのだろうけど、すぐに絶望の表情に変わったよ。
そこにヨシテル将軍と私が一歩前へ進み出た。
『シンハ皇国の皆さん、ルクス公国へようこそ。あなた方の目的によっては全員を拘束させていただきます』
私の発言を聞いた男たちは皆ギョッとしている。そりゃ異国の地で母国語を流暢にしゃべる人間がいたら不気味だよね。
指揮官らしき男が前へ進み出て発言した。
『俺たちはシンハ皇国の外交使節団だ。いきなり攻撃してくるとはなんたる野蛮人か。厳重に抗議するものである』
私はこれをガルム語に翻訳してヨシテル将軍や兵士たちに聞かせてあげた。これを聞いた兵士たちの反応は憤る者、冷笑を浮かべる者と様々だ。
第一陣部隊の暴虐非道を知っているだけに、この発言の空虚さが目立つよ。お前らのほうが野蛮人だろ。
『なお、第一陣の部隊の皆様がどのような境遇になっているのかをご説明しますね』
私はルクス公国防衛戦の結果と捕虜の処遇を丁寧に説明してあげた。どんどん顔色が悪くなってくる男たち。
最後に第一陣部隊の指揮官である大佐を兵士が連れてきた。後ろ手に縛られ、少し内股になって歩いてくる大佐を見た男たちは絶望の色を浮かべている。
その大佐が言った。
『悪いことは言わん。降伏したまえ。ここは蛮族の地ではなく、おそるべき強国だぞ』
港で起こっている事態の不穏さに気付いたのか、接岸している船以外の9隻の船が錨を巻き上げ始めた。港外に脱出するつもりだろう。
いち早く動き出した船が突然大爆発を起こした。港口に陣取っている王国船から艦砲魔道具で攻撃したのだ。ほぼ水平に撃たれた砲弾は舷側装甲を突き破り船内で爆発したようだね。
続いて動き出した船も爆発したことで、残りの船は動きを止めた。ふふ、一隻たりとも逃がさないよ。
『動くと撃沈しますので、ご注意を。おっと少々遅かったようですね』
にっこりと微笑んで忠告してあげたのに、恐怖の表情で私を見る男たち。うむ、不本意だ。