222 帝都を観光
帝国貴族の居並ぶ謁見の間から会見場所を応接室に移し、帝国側は皇帝陛下とお后様、宰相閣下、こちらはミカ様、アレン、私の合わせて六人で仲良く談笑した。
シゲノリ中佐との旅の話を面白おかしく語ってあげたら、皇帝陛下とお后様が楽しそうに聞いていた。特にお后様が土下座の場面で大喜びしていたよ。多分、水戸黄門好きに違いない。
平民に扮して諸国漫遊し、悪党を成敗していくという分かりやすい勧善懲悪ものだからね。いや、こっちは実話なんだけど。
宰相さんだけは、苦虫を噛み潰したような顔で帝国貴族の腐敗っぷりを嘆いていたのが少しだけ気の毒だった。
ヨシテル将軍とアレンが剣の勝負をしたときの話も結構うけたね。ヨシテル将軍からは聞いていたんだろうけど、もう一方の当事者の話だから面白いに決まっている。
もっともアレンの印象ではヨシテル将軍は本気じゃなかったらしい。本気のヨシテル将軍とは勝負したくないとアレンが言ったら、皇帝陛下が嬉しそうにしていたよ。
戦争の話はあえて避けていたようだ。本当はブレーン会戦の真相や共和国への素早い救援の話なんかを聞きたいんだろうけど、さすがに直接は聞けないよね。まぁ聞かれても『軍事機密です』としか言えないんだけど。
とにかく険悪になることもなく、和やかに会見が終了したのは良かったよ。一安心です。
謁見の翌日は帝都観光だ。案内人としてシゲノリ中佐が来たので、変に気を使うこともなく楽しめたよ。てかシゲノリ中佐もこき使われるね。
お忍びの観光なので例の設定(ヨシフル・サクラ兄妹とサクラの恋人のサネユキ、ヨシフルの娘のアカネ)で街歩きを楽しんだんだけど、さすがに帝都では絡んでくる者はいなかったよ。
店舗や屋台などを見て回りながら帝都の繁栄を眺めている私にシゲノリ中佐が得意げに言った。
『妹よ、どうだね、帝都は。活気があるだろう?』
田舎にいた妹が初めて帝都にやってきた風に言ってきたので、ちょっとイラッとした。
『お兄ちゃん、なかなかの都会だね。グレンテイン王国ほどじゃないけどね』
『ふ、何を言っているのだ、妹よ。こっちのほうが都会に決まってるだろ?』
ふふふ、笑顔が引きつってるよ、お兄ちゃん。
『ヨシフルさん、サクラ。不毛な争いはやめてお昼でも食べようよ。アカネちゃんもそろそろお腹が減ったんじゃないかい?』
『はい、サネユキおじさん。サクラおばさんも、お父さんも良いよね?』
おばさん…だと。確かに設定上、兄ヨシフルの娘アカネは姪だから私サクラは叔母にあたる。でも、おばさんって言われるとちょっとショックだよ。
そう言えば、王都にいるお兄様とペリーヌお義姉さまの間に子供が生まれると、私はすぐに叔母さんになっちゃうなー。
昼食のあと、ある鍛冶屋を覗いてみるとそこでは蒸気機関を作っていた。シンハ皇国の蒸気船の蒸気機関を参考にして、小型の蒸気エンジンを試作しているみたい。王国ではまだまだ試作まではいってないので、なかなか興味深い。
『おじさん、これって蒸気機関ですよね。どの程度の出力を想定しているのですか?』
『おお、嬢ちゃん、よく知ってるな。そう、蒸気動力装置ってやつだ。小型化して実験しているだけなんで、想定出力とかそんなのは考えてねぇよ』
ふむ、ピストンの往復運動を回転運動に変える蒸気レシプロエンジンに缶とボイラーだね。見たところよくできてるように思える。
『これと同じものをもう一台作って私に売ってもらえないかな?言い値で買うよ』
シゲノリ中佐が焦って話に割り込んできた。
『ダメだよ、サクラ。おまえグレンテイン王国に輸出するつもりだろうが、さすがにそれは許可できんぞ』
『ええ、良いじゃん、お兄ちゃん。けち臭いこと言わないでよ』
ってこんなときでも兄妹ごっこは継続ですか。
『店主、すまんね。妹が変なこと言って。気にしないでくれ』
『はっはっは、良いってことよ。兄妹仲が良さそうで羨ましいぜ』
むー、アイテムボックスがあるから密輸は簡単なんだけど、シゲノリ中佐がいないところで商談するべきだった。まぁ、仕方ないか。