221 皇帝へ謁見
翌日すぐに帝国皇帝との謁見が実現した。
『グレンテイン王国子爵ミカ・ハウハ殿、全権大使マリア・フォン・シュトレーゼン殿、随員アレン・フォン・リヴァスト殿、招請に応じてくれて感謝する。余がガルム帝国皇帝ゲンタロー・ガルム三世である』
今初めて知ったよ、皇帝の名前を。やはり日本人の転生者の影響なのかな?
40代くらいの中年男性でさすがに威厳があるね。きれいに整えられた口髭と顎鬚のせいかもしれないけど。
『ミカ・ハウハ、です。旧、ファインラント、王族です』
さすがに一か月程度の勉強ではガルム語の習得は完ぺきとは言い難い。でも片言であっても、これだけしゃべれれば大したもんだけどね。
『マリア・フォン・シュトレーゼンでございます。貴国の帝都を訪れることができて感激しております』
『アレン・フォン・リヴァストです。皇帝陛下にお目通りがかないましたこと、恐悦至極にございます』
『うむ、まずはミカ殿。ファインラントを併呑した際に起こった悲劇について、余から謝罪するものである』
私がミカ様に通訳してあげると、ミカ様は目に涙を浮かべた。念願がかなったね。
『次にマリア殿。貴殿の働きによりルクス公国が侵略されるという危機から脱することができた。感謝する』
『いえ、私は自分にできることを成したまででございます』
実際、私は自分が活躍した実感はない。活躍したのは私の周りの人たちだよ。
『ルクス公国防衛戦においては、ミカ殿の働きも素晴らしかったと報告が上がってきておる。その功績を踏まえ、現在帝国の直轄領である旧ファインラント王国の統治を貴殿に任せたいと考えておる。帝国貴族に任じ、ファインラント領を治めてもらう形だ。さすがに再度ファインラント王国として独立させるわけにはいかぬ。不満もあろうがこれで納得してもらいたい』
ファインラント語しか話せない住民を統治するのは、帝国にとってもコストがかかるからね。皇帝の話をミカ様に通訳してあげたんだけど、あまり嬉しそうではなかった。
『私、グレンテイン貴族、なりました。ファインラント、戻るつもり、ありません。その任、従兄弟の第二王子殿下、お命じ、ください』
片言だけど意味は通じるね。共和国にいるファインラント亡命政府を立ち上げた第二王子殿下か。うむ、頼りない印象しかないんだけど、大丈夫なのか?
同じことを皇帝も思ったのだろう、眉間にしわが寄っている。
『そもそも王や王子たちが愚昧であったゆえ併呑したのだ。幼かったミカ殿は知らなかったのだろうが、かなりの悪政を敷いていたのだよ』
ええ?そうだったのか。それで併呑されても住民に不満は出なかったし、地下抵抗組織も大きくならなかったんだね。
ミカ様に通訳するには気の毒な内容だったけど、知らないのも可哀想だ。しっかりと通訳してあげたら、目に見えて落ち込んでしまったよ。そりゃおじさん(王様)一家がろくでもなかったって話だからね。
『すぐに返事をする必要はない。しっかりと考えた上で、それでも断ると言うなら何も言うまい。潔く諦めるとしよう。できれば良い返事を待っておるぞ』
無理強いされなくて良かった。そうなったら暴れるところだったよ、ふふふ。