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転生した女性SEの異世界魔法ライフ  作者: 双月 仁介
社会人編(3年目)
219/303

219 悪徳領主

 この旅路では野営というか野宿はしない。必ず行く先々の街や村に逗留することにしている。宿屋があればそこに、無い場合は村長さんの家とか集会所に泊まらせてもらっているよ。

 なぜなら料理ができる人間がここには一人もいないからだ。一人もだ!

 女性が二人もいるのに…ってのは言わないで。どちらもお姫様と貴族令嬢ですのよ、おほほ。

 私が前世で料理をしなかったのかといえば答えは(いな)。一人暮らしだったから料理くらいしてたよ。でも転生後は一度も料理をしてないし、特にコンロの魔道具の使い方がよく分からん。しかも野営ではそのコンロすらない。キャンプやサバイバルの経験が無かったので無理です、はい。


 服装については、謁見用の豪華な衣装は自動車に積んでいるんだけど、旅の途中では平民のような普段着を着ている。それはシゲノリ中佐も同様で、軍服ではなく普通の服だ。

 したがって自動車だけは目立つけど、普通に旅をしている民間人って感じだ。

 シゲノリ中佐が30代、アレンと私が20代前半、ミカ様が10代前半と年齢がバラバラなのが変と言えば変だけどね。兄弟姉妹にしては歳が離れすぎているしなぁ。

 話し合った結果、次のような設定を作った。

 シゲノリ中佐と私が兄妹(きょうだい)。私の恋人がアレン。シゲノリ中佐の娘がミカ様。ミカ様だけはガルム語を話せないけど、グレンテイン王国で育ったからという設定だ。

 名前も帝国風の偽名を考えた。私がサクラ、アレンがサネユキ、ミカ様がアカネで、ついでにシゲノリ中佐も悪ノリしてヨシフルと名乗ることになった。

 うん、秋山兄弟から取ったのはすぐ分かるね。秋山好古(よしふる)と秋山真之(さねゆき)だ。もちろん全員分の偽名を私が名付けたよ。


 とある街のとある宿屋に宿泊したときのこと。泊まった翌朝、宿の食堂で朝食をとっているとき、表に馬車が停まる音がしたと思ったらその数分後に豚人(オーク)が宿に入ってきた。

 いや、失礼豚人(オーク)のように太った人間だった。200キログラムくらいありそうだ。さぞや魔力量も多いことだろう。

『フゴッフゴッ、ここに美しい女性が宿泊していると聞いたぞ。この街の領主である(わし)が可愛がってやるからすぐに名乗り出ろ』

 なんだろ?フゴフゴうるさいよ。ん?美しい女性?まさかミカ様のこと?ロリコン豚人(オーク)野郎なのか?


『おお、そこにおったのか。なるほど確かに美しいな。さっそく我が屋敷へ行くぞ』

 あれ?私?いや行かないよ。そんな暇はない。

『サクラと申します。急ぎの用事がありますので、せっかくのお誘いではありますがお断りさせていただきます』

『フゴッ?領主の誘いを断るとは国家反逆罪だな。お前たちこの女を捕縛せよ』

 いかにも破落戸(ごろつき)といった感じの男たちがニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべて近付いてくる。盗賊はこんなところにいたんだね。

『お兄ちゃん助けてー(棒)』

 私はシゲノリ中佐に助けを求めた。

『領主様、この()の兄でヨシフルと申します。妹にいったい何をなさるおつもりですか?』

『フゴッフゴッ、決まっておるだろう。(わし)の奴隷にして可愛がってやろうというのだ。領主の屋敷で贅沢に暮らせるのだぞ。どこに不満があるというのだ』

 なんと分かりやすい。いかにも悪徳領主っていうステレオタイプな人物だな。えっとこういうとき帝国的には水戸黄門ごっこしちゃっても良いのかな?

 アレンが(さや)に入ったままの剣を構えて私の前に立った。

『この()の恋人のサネユキだ。サクラを連れて行きたければ俺を倒してからにしろ』

 なんという演劇感、これが芝居の一幕と言われても信じちゃいそうだね。

 ミカ様はガルム語がまだあまり聞き取れないので、よく分かってない顔をしているけど。

 てか、皆ノリノリだよ。楽しんじゃってるなぁ。


『フゴッ、問答無用だ。お前たちさっさと捕まえんか。フゴッ』

 破落戸(ごろつき)たちが剣を抜いてせまってくるんだけど、アレンが簡単に倒しちゃってるね。鞘から抜かずに剣の柄の部分で攻撃して倒しているよ。技量が違い過ぎる。

 私の出番が無いんだけど、私が魔法を使うと死傷者続出になるからなぁ。

 あっという間に食堂の床の上は、倒れて(うめ)いている破落戸(ごろつき)たちで一杯になった。

 シゲノリ中佐も感心したようにアレンを見ている。


『フゴッフゴッ、領主の護衛に暴力をふるった罪でお前たちを死罪にしてやるぞ。覚悟しろ』

『覚悟するのは領主様、あなたのほうですよ』

 シゲノリ中佐が口上を述べ始めた。

『こちらにおわすお方をどなたと心得る。恐れ多くもグレンテイン王国特命全権大使で伯爵令嬢でもあるマリア・フォン・シュトレーゼン様であらせられるぞ。大使閣下の御前(ごぜん)である。()が高い。控えおろう』

 私は溜め息をついてから仕方なくシュトレーゼン家の紋章が刺繍されたハンカチをアレンに渡すと、アレンがそれを全員に見えるようにかざした。帝国でシュトレーゼン家の紋章が意味あるのかな?という疑問も抱いたんだけど、三つ葉葵の入った印籠(いんろう)とか持ってないしなぁ。

 ところが私の予想に反して、その紋章を穴が開くほど見つめていた領主が青ざめたと思ったらいきなり土下座したよ。さらにそれを見た破落戸(ごろつき)たちや食堂にいたほかの客や従業員たちまでもが土下座した。デジャブーだ。共和国でも似たようなことがあったなぁ。


 現場はシゲノリ中佐の独壇場になっている。

『その(ほう)、これまでにも同じような非道を繰り返していたこと、訴えにより明白である。厳しく詮議の上、罪に問うから覚悟しておけ。引っ立てぃ』

 いつから待機していたのか知らないけど、帝国軍の軍服を着た兵士たちが食堂に入ってきて、領主や破落戸(ごろつき)たちに縄をうち、連行していった。


 ここからグレンテイン語に切り替えてシゲノリ中佐を問い詰めた。

「なんですか、この茶番は。わざとこの宿屋に泊まりましたね?」

「いやー、うまくいきましたね。軍に対して街の住民から訴えが上がっていたんですよ。ただし匿名で。住民に聴取しても脅されているのか全員口をつぐんで証言が得られなかったんですが、現行犯で逮捕することができて本当に良かったです」

「ああ、まぁ良いですけどね。でも次があるなら、今度は事前に打ち合わせしておいてくださいよ」

 悪を滅するのに王国も帝国もない。悪徳領主が裁かれて街が平和になるのなら、この茶番も許容するしかないじゃないか。はぁー(溜め息)。


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