218 帝都へ出発
帝国政府はアメリーゴ共和国の中に発足したファインラント亡命政府の存在を認めていないし、その首班の元・第二王子殿下にも関心がない。というか無視している。
しかし、旧ファインラントの王族であるミカ・ハウハ子爵(グレンテイン王国内の爵位)の存在には注目しているようだ。
帝国政府からミカ様へ招請状が届いたのだ。その内容はミカ様を帝都ガルムンドへ呼び出し、帝国皇帝に直接拝謁することを求めたものだった。
呼び出してから暗殺する?そんなことは絶対に無いと断言できる。なにしろ王国の子爵なんだから、ミカ様に危害を加えるということは王国に喧嘩を売るってことになる。VIPとして守ってくれるだろうね。
もしもミカ様が帝都に行くのなら、私も通訳として一緒に行こうかな。帝都観光をしてみたいってのもある。
で、私が行くなら婚約者のアレンも同行するだろう。また工房の仕事に穴を開けて迷惑をかけるだろうけど仕方ない。招請状には随員を二人まで認めると書いてあったので、アレンと私で決まりだね。アレンならガルム語もペラペラだし、適任だと思う。
王宮の了解ももらって帝都ガルムンドへ出発した私たち(ミカ様、アレン、私)は、護衛無しの気ままな旅を楽しんだ。あ、もちろん帝国に入ってからは帝国政府の手配した護衛がつくだろうけどね。
「ミカ様、のんびり行けば約一か月の旅路ですけど、その間にガルム語を勉強しましょうか?」
「はい、マリア様。よろしくお願いします」
「うん、それは良いね。将来のことを考えると、帝国の言葉が分かるようになっておくことは決して無駄じゃないよ」
アレンの言う通り、帝国の言葉が必要になる理由はファインラント領を治める際に必要になるはずだから。まぁそういう話になるかどうかは、帝国皇帝との話し合い次第なんだけどね。
ミカ様は母国語であるファインラント語のほかに、王国で用いるグレンテイン語もペラペラになっているほどの語学の天才だ。さらにガルム語もマスターすればバイリンガルじゃなくトライリンガルになるね。素晴らしい。
なお、自動車移動なので急げば二週間ほどで帝都へ着くんだけど、のんびりと各地を観光しながら一か月ほどかけて行く予定だ。
シュトレーゼン領では領都の屋敷にいる代官のセバスティアンさんや使用人たちにアレンとの婚約をお祝いされ、グランドール辺境伯領でも盛大に祝われた。皆さんありがとう。嬉しいです。
帝国との国境を越えて帝国側の検問所に到着すると、出迎えてくれたのはシゲノリ中佐だった。
「大使閣下、お久しぶりです。ご婚約の件につきましては誠におめでとうございます」
「お久しぶりです、シゲノリ中佐。炭鉱開発は順調のようですね。良質の石炭がルクス公国へ輸出されているので、王国の船を動かす際にとても助かっております」
「ええ、大使閣下のおかげですよ。その節は本当にお世話になりました」
ちなみに王国内で石炭や原油はまだ見つかっていないため、現時点で帝国の石炭はとても貴重です。
「ミカ・ハウハ子爵。このたびは帝国政府の招請にお応えいただき感謝申し上げます」
「私の望みはただ一つ。両親と二人の姉を処刑した件について帝国皇帝からの謝罪を聞くこと、それだけです」
「はい、その件につきましては、できるだけご希望に沿えるよう調整を行っております。なお、信じていただけないかもしれませんが、その処刑は皇帝陛下のご指示ではありません。現地部隊の独断専行を招いた責任につきましては痛感致しておりますが」
ああ、やはりか。殺すよりも生かしておいたほうが統治の面でもメリットがあるのに、なぜ処刑したのか疑問だったんだよな。
とにかく帝国皇帝はトップとして、部下の失態を謝罪すべきだよ。
そのあとアレンとも軽く挨拶をしたシゲノリ中佐は、案内人として自動車に乗り込んできた。
あれ?護衛は?
なんと護衛はいなかった。シゲノリ中佐の武力が傑出しているとかではなく、護衛が不要なほど帝国内は治安が良いそうだ。前回は『自動車化魔道小隊』が一緒にいたから襲ってくる盗賊もいないのかって思ってたら、そもそも盗賊が駆逐されていて存在しないらしい。むー、王国よりも治安が良いかもしれない。
なんか負けた気分…。