216 シップガンの開発
さて現在の懸案事項は今年の秋から冬にかけて来航する予定のシンハ皇国の増援部隊への対処だ。
基本的に帝国軍(駐屯しているヨシテル将軍の部隊)が対応してくれるはずなので心配はしていない。
でも、せっかく王国籍の蒸気船が手に入ったんだ。その船を魔改造したいよね。要するに魔道具による武装の付与だ。戦略級魔法のストーンキャノンを戦術級に威力を落として、それを魔道具化したものを船に装備してみようかなと考えている。
・口径:20ミリメートル
・砲弾長:20ミリメートル
・初速:1000メートル/秒
・着弾後の爆発:オン(砲弾を構成する魔力を100%火属性に変換)
・モース硬度:8(タングステン以上)
この仕様で魔力量は800なので、無理すれば個人でも発動できる規模だ。
威力なんだけど、爆発力(TNT換算)と魔力量の関係は比例(一次関数)ではなく、どうも二次関数的のようだと思えるんだよね(感覚的なものだけど)。
魔力量6000でTNT換算1キロトンと仮定すると、魔力量800はおよそTNT換算18トンくらいの威力かな?勝手な私独自の計算式で推測したものだけどね。
ちなみにブレンダが敵船に命中させた魔力量3000の砲弾は、TNT換算で250トンくらいになる。そりゃ一発でスクラップになるよね。轟沈しなかったのが不思議なくらいだ。
魔法陣はストーンキャノンを改造するだけなので簡単だったし、魔道具用の魔法陣に書き換えるのもすぐに終わった。魔法名はシップガンだ。つまり艦砲だね。
あとは魔道具にしてもらうだけなんだけど、攻撃用の兵器ってことでまた難色を示されるかもしれないね。
「こんにちはー。お久しぶりです、皆さん」
「おう、マリアの嬢ちゃん、生きて帰れて良かったな。嬉しいぜ」
「お嬢様、お帰りなさい。お土産は無いのですか?」
「マリアお嬢様、ご無事で何よりです。本当に良かった」
もう分かると思うけど上からクラレンスさん、リヒャルトさん、シャルロッテさんの発言だ。
魔道具のお土産が無い代わりに蒸気機関の話を聞かせてあげたら、全員が目を輝かせて現物を見てみたいと熱望した。魔道具馬鹿だけじゃなくて根っからの技術者なんだね。
ルクス公国の港に係留している王国籍の蒸気船を練習船として、留学生を派遣して勉強させるという計画なんだけど、うちの工房からも一人くらいは留学させてあげたいね。てか、まさにその練習船を魔改造する計画を(私が勝手に)立ててるわけだけど。
詳細は国家機密なので言えないけど、来航者が侵略者だったことと数か月後には再度侵略にやってくることを伝えた。
その上でシップガンの魔法陣を渡して魔道具化を依頼したところ、予想に反して全員が乗り気になった。『爆発』という現象に対する興味と侵略者への対抗策ってのが決め手だったようだね。
精密射撃装置や自動連射装置の経験を生かして、すぐに試作品が完成したよ。
ただ問題は射撃実験をする場所がないことだ。またアレンのリヴァスト領へ行って荒野にぶっ放すしかないかな?まぁ王都からは近いからすぐに行けるけど。
アレンとも相談して、アレンと私、それに職人三人というメンバーでリヴァスト領へ行くことになった。もちろんお兄様にも了承してもらっている。
領都にあるリヴァスト家の屋敷で、使用人たちからアレンと私の婚約をお祝いされたのは嬉しいサプライズだった。そのときうちの職人たちも一緒に驚いていたけど、そう言えば三人には婚約したことを伝えてなかったよ。
荒野での射撃実験では特に問題は発生しなかった。1キロメートル先や2キロメートル先に着弾した砲弾が爆発を起こすのを見て、職人たちはめちゃ喜んでいたね。おそらく初めて『爆発』という現象を見たせいだろう。
戦略級魔法ストーンキャノンを見せたらどういう反応になるかな。もちろん見せられないけどね。