214 陛下への報告
いかん。二つ名というか称号というか、そういうものがどんどん増えていく。
『可愛い悪魔』『王国の至宝』ときて、今回の『聖女』だよ。これが一番やばい。勝手に名乗っていると思われたら、教会が文句を言ってきそうだよ。
友人たちには『聖女』呼びの一件について、箝口令を敷かないとな。
でも次のシゲノリ中佐の発言で場が凍り付いた。
「ああ、それなら大丈夫ですよ。ただの聖女ではなく、苛烈の聖女ですから。うんうん、まさに名は体を表すですなぁ」
慈愛の聖女とかじゃなく、苛烈?果たして褒められてるのだろうか?なんか微妙だ。
友人たちも何とも言えない顔をしているよ。
てか、その形容詞って魔王とかにつけるものじゃない?苛烈の魔王…うん、しっくりくる。
そんな話をしつつ、ようやく帝国と王国の国境検問所まで帰ってきた。
「シゲノリ中佐、お世話になりました。数か月後にはルクス公国を再度訪問することになるかもしれませんが、そのときはまたよろしくお願い致します」
「こちらこそありがとうございました。今後の大使閣下のご活躍をお祈り申し上げます」
うん、帝国に対する印象がガラッと変わっちゃったな。良い人もいれば悪い人もいるってことか。それは王国や共和国も同じだろうけどね。
グランドール辺境伯領に入った私たちは辺境伯様に挨拶をしたあと、すぐにそこを通り抜け、うちの領地であるシュトレーゼン領へと入った。
本当は領都の屋敷へ立ち寄って代官のセバスティアンさんにも挨拶したかったんだけど、炭鉱開発で寄り道したせいで時間がない。
まっすぐ王都へと向かった私たちは数日後には王都へと帰還し、うちの屋敷よりも前に王宮へと向かった。陛下に直接ご報告するためだ(通信魔道具で概要は説明済みなんだけど)。
謁見の間には陛下と私たち7人に加え、護衛のヒューラー小隊長と第1師団長のヒンデンブルグ公爵様もいる。
ヒューラーさんなんかフリーズしちゃってるよ、大丈夫かな?
「マリア嬢、今回の働き誠に見事であった。シンハ皇国の武力調査とその対処法、新たな動力機関の調査などその功績は絶大なるものである。現在のマリア嬢の立場は男爵令嬢だが、独立した貴族として一家を立てることを認める。受けてくれるだろうか?」
「おそれながら申し上げます。私はあくまでも裏方として目立たず、日々の平穏な暮らしを望む小心者でございます。代わりに我がシュトレーゼン家の陞爵をお願いできれば幸いと存じます」
「ふむ、ではシュトレーゼン男爵を伯爵に陞爵することにしよう。領地は今までのままでもよかろう。なにしろシュトレーゼン家は王室よりも金持ちだからな。はっはっは」
おお、二階級特進ですか。子爵を通り越して伯爵ですよ。お父様とお兄様がきっと喜ぶね。
ん?アレンの目が輝いているけど、リヴァスト家は関係ないよ。まぁ、親友の家が陞爵したのを喜んでくれているのだろう。
「さらにシャミュア家を子爵から伯爵へ、ライアン家を準男爵から男爵へ陞爵することをここに宣言する」
ルーシーちゃんとロザリーちゃんのシャミュア家とリオン君のライアン家も陞爵か。とても嬉しい。ありがとうございます、陛下。
「ブレンダ嬢は貴族になることを望むだろうか?」
「い、い、いえ」
ふむ、ブレンダの代わりに答えてあげよう。
「陛下、ブレンダは幼馴染の料理人と所帯を持って、実家の宿屋を継ぐことを望んでいると思われます。したがって貴族になることは望んでいないはずです」
ぶんぶんと頭を縦に振るブレンダ。
「そうか。それでは褒美として、現在は折半である宿屋の警備費用を今後は全て国が負担することとしよう。それで良いだろうか?」
「は、は、はい。ありがとうございます。両親も喜びます」
おお、それは良かったね。用心棒代がタダだよ。
次にアレンに向かって陛下がおっしゃった。
「アレン殿のリヴァスト侯爵家を陞爵するわけにはいかぬゆえ、そなたには何もないな。許せ」
「陛下、お許しいただけるのであれば、一つだけお願いがございます」
「うむ、申してみよ」
「私とマリア・フォン・シュトレーゼン伯爵令嬢との婚約をお認めいただきたいのです」
私は驚きに目を見張り、リオン君は悔しそうにアレンを睨んでいる。
「ふむ、儂に異存は無いが、成立するかどうかはマリア嬢の気持ち次第だな。無理強いすることもできぬゆえ。マリア嬢、そなたはアレン・フォン・リヴァストからの婚約申し込みを受けるかな?」
私は顔が火照るのを自覚しながら静かに、でもはっきりと答えた。
「はい。私のような者で良ければ喜んでお受け致します」
身分差から諦めていたことだけど、2年前に命を救われたときから私の心は決まっている。アレンとともに歩めないなら、一生独身でも良いと思っていた。
とてもとても嬉しい。言葉が見つからないくらい嬉しいよ。
ヒンデンブルグ公爵様が発言した。
「これはめでたい。それでは儂が証人になろう。ヒンデンブルグ公爵家の名のもとに、リヴァスト侯爵家令息アレンとシュトレーゼン伯爵家令嬢マリアの婚約を発表しようではないか」
陛下からも祝意を述べていただいた。
「アレン殿、マリア嬢、儂からも祝福するぞ。これからも二人が中心となって王国の発展に寄与してもらいたい」
「「はい、仰せのままに」」
このあとにヒューラー小隊長が陛下から直接お褒めの言葉をいただいた。シンハ皇国との戦闘で活躍したからね。
特に女性たちの救出にはヒューラー小隊長率いる『自動車化魔道小隊』の各分隊が大活躍したらしいよ。
ヒューラーさんは自動連射装置と防御結界装置のおかげだと謙遜してたけどね。
最後はミカ様だ。
「ミカ嬢、旧ファインラント王家に連なる姫君に失礼とは思うのだが、我が国の名誉男爵位を受けてもらえるだろうか?」
「いえ、私はマリア様のお役に立つことだけを考えて行動したのでございます。そのような栄誉は身に余るものとして辞退させていただきたく」
ふむ。これは貰っておいたほうが良いと思うな。私の予想では帝国からも叙爵の打診があると思うので、その際に王国と張り合おうとして最低でも男爵位、うまくいけば子爵位が貰えるかもしれないからね。
旧ファインラント王国は今は帝国直轄領なんだけど、ミカ様を帝国貴族にしてハウハ家の領地として治めさせるんじゃないかと思っている。あくまでも私の予想だけどね。
陛下のお許しを得てから上記の私の推測を話すと、さきほどの褒賞がアップグレードした。
「うむ、それではミカ嬢を王国の子爵位に任ずる。領地の無い法衣貴族ではあるが、それで納得してもらいたい」
おお、良いんじゃないかな?私はミカ様を説得して、この叙爵を受けてもらった。
これでようやくミカ様の身分が安定したね。うん、良かったよ。