211 後始末②
戦後処理はまだまだ終わらない。
次は捕虜の尋問だけど、それができるのは私だけだ。ヨシテル将軍やシゲノリ中佐にヒアリングして、聞き出してほしいことを箇条書きにしてもらった。
ただし、魔法陣による魔法発動方法に関しては、私のほうで拒否させてもらった。なにしろ王国軍にすら開示していない秘匿情報だからね。
シンハ皇国の国力や文化・文明のレベル、使用している武器、それに増援部隊の件や乗ってきた軍船の技術(特に蒸気機関)など私も知りたい内容ばかりだ。
200人強の捕虜から一人一人聞いていくのは時間がかかり過ぎるので、チュール少尉に代筆させてアンケート用紙を作ったよ。
何をどのレベルまで知っているのかということを自己申告で答えさせたのだ。なお、有用な情報を齎した者には待遇の改善を約束するとアンケート用紙に書いておいた。
このアンケート結果をもとにすることで、とても効率的に尋問することができたよ。
敵部隊の最高指揮官は大佐だったんだけど、拷問もしていないのにペラペラしゃべってくれた。
あと、有益な人間として船の機関員や航海士が生き残っていたのは良かった。聞いたところ蒸気機関は石炭火力だったよ(燃える石と表現していたけど)。スクリュー推進ではなく外輪船だったし、まるっきり黒船じゃん。サスケハナ号かよ。もっとも大砲は積んでないけどね。
この辺の蒸気機関に関する情報は、ガルム帝国やルクス公国とも分け合うことにした。現物の船がある以上、隠し通すことはできないからね。
うむ、前世と同じように産業革命が起こるのだろうか?紡績機や蒸気機関車なんかをすぐに発明しちゃいそうだよね。ただしそれらは、シンハ皇国ではまだ登場していないらしい。
航海士からは羅針盤の読み方を教わった。まぁ単なる方位磁石なんだけどね。これが無いと外洋航海は難しいから重要な技術だよ。
これらの技術(蒸気機関と羅針盤)が得られただけでも、帝国としては収支がプラスになるんじゃないかな?
あとは四か月後に来襲する増援部隊への対処だね。
今回の一連の戦闘により敵への対処方法は確立できたので、帝国軍だけで問題なく撃退できると思われる。まぁ私だけは通訳としてもう一度来たほうが良いかもしれないね。
最後に10隻の船のうち1隻はスクラップ状態なんだけど(ブレンダが犯人です)、残り9隻の分配について話し合った。
「ルクス公国に賠償として4隻を渡し、我が帝国が5隻をいただくということで了承いただけるだろうか?」
ヨシテル将軍がまず発言したけど、私は即座に反論した。
「我が王国にも戦闘参加の報酬として1隻を譲り受けたいのですが」
「お主たちがスクラップにした船なら差し上げても良いぞ」
「ご冗談を。あのようなゴミはいりません。機関に問題の無い船をいただきたい。1隻だけで構いませんよ」
「しかし王国の港への回航は距離的に難しいだろう。もらってどうするつもりだね?」
「王国軍の練習船にします。こちらの港に係留させてもらって、定期的に王国から留学生を派遣したいのですがいかがでしょう?もちろん港の使用料はルクス公国に毎年お支払いしますよ」
「ほほう、面白いことを考える。ふむ、それならルクス公国への割り当てを1隻減らしても港の使用料という定期収入がある分、公国側も納得するかもしれん。その線で公国政府と話してみるか」
なお、これって私が勝手に決めているわけじゃないよ。通信の魔道具で陛下と話し合った結果です。
で、結局のところ、公国に3隻、帝国に5隻、王国に1隻という割り当てに落ち着いた。帝国の割り当てが多いのは今回の『ルクス公国防衛戦』の主役であった以上、仕方ないね。