204 ヨシテル将軍
帝国軍1個師団1万人のうち千人が魔導師ということは、残り9千人が剣士や弓士ということになる。
このうち2千人の剣士にうちの工房で作られた防御結界装置を持たせてあげれば余裕で勝利できるはずだ。
防御結界を展開してから、あとは突撃するだけで良い。敵がファイアボールやストーンライフルを撃ってきても問題なく防御できる。
シゲノリ中佐によれば1個分隊に二つの携帯型防御結界装置を配備しているそうなので、全てかき集めれば2千個になる。
ところが帝国製の魔道具では、魔法陣の魔法のうちストーンライフルならかろうじて防げるかもしれないけど、ファイアボールは絶対に防げない。
むー、困ったな。
こんなことならうちの防御結界装置を大量にアイテムボックスに入れておけば良かった。後悔先に立たずだね。
うちの小隊には50個の防御結界装置があるから、二人で一つ使うとして25個を提供できる。あと、私たち7人の持つ防御結界装置のうち5個は提供できるかな。なぜならマジックガードの魔法が使えるから(リオン君とミカ様の防御結界装置はそのまま)。となると、帝国に貸せるのは合計30個ほどになるね。でもうちの魔道具を帝国に貸したくないんだよなぁ。
そうだ、帝国製の防御結界装置は結界強度が弱いけど、重ね掛けすればどうだろう。
2千個を3個ずつ重ね掛けすると約660人分になるよね。
600人を超える剣士による斬り込み隊(1個大隊)と後方から援護するうちの自動車化魔道小隊によって、2千人程度の敵であれば制圧できるんじゃないかな?
うん、帝国軍の師団長さんに提案してみよう。
帝国製防御結界装置の重ね掛けについては、実験してみないと分からないけどね。
将校斥候が帰還しないことに不信感を抱かれないか不安だったんだけど、三日程度なら大丈夫だったようだ。敵には特に目立った動きは見られなかった。
監視を続けながら待機状態を継続していた私たちは、ようやく帝国軍の接近を察知した。もちろんマジックサーチで分かったんだけどね。
「ようやく来ましたね。シゲノリ中佐、一緒に行っていだだけますか?」
私は接近する帝国軍部隊の幹部に面会するべく、シゲノリ中佐を伴って大兵力が展開する方面へ歩いて行った。ちなみにマジックサーチの存在は秘匿している。中佐はおそらく私が望遠鏡で発見したと思っているはずだ。
『帝国参謀本部所属のシゲノリ中佐である。師団長閣下に面会したいので、急ぎ取り次いでもらいたい』
もちろんガルム語での指示だ。
なお、私の護衛としてアレンだけが隣にいる。アレンはアメリーゴ語は片言だったけど、ガルム語ならペラペラだからね。バイリンガルですよ。
すぐに師団長のもとへ案内された私たち3人は馬に乗る鎧姿の男性と面会した。
「おぉ、そこにいるのはアレン殿ではないか。貴君が大使一行に参加していることは聞いていたが、ここで会えて吾輩は嬉しいぞ」
あれ?グレンテイン語だ。吾輩?なんか聞き覚えのある声だし、おいおいまさかヨシテル氏か?
「お久しぶりです。アレン・フォン・リヴァストです。およそ8年ぶりでしょうか」
高等学院の武術大会のエキシビションマッチでアレンと戦った剣豪将軍ヨシテル氏じゃないか。って本当に将軍だったのか。
「隣にいるのは8年前にもアレン殿の隣にいた娘だな。まさかお主が全権大使とはな。よろしく頼む」
「マリア・フォン・シュトレーゼンでございます。お久しぶりでございます。この度は侵略者にともに立ち向かう戦友として、よろしくお願い申し上げます」
ヨシテル将軍(階級は中将らしい)と副官それに師団司令部を構成する人員を監視拠点に案内し、これまでに判明している全ての情報を伝えた。
「魔導書の魔法陣を使う技術か。それはどれほどの威力があるのか、我が軍の防御結界で防げるのか大使閣下には分かるのかな?」
「はい、すぐにでも実験することが可能です」
これに対してシゲノリ中佐が懸念を表明した。
「捕虜に魔法を撃たせるつもりですか?それは危険でしょう」
「いえ、私が撃ちますよ」
グレンテイン語を理解できる帝国軍の関係者は全員驚いてるね。魔法陣を使えるのは私だけじゃないって知ったらさらに驚くだろうな。
敵からは見えない少し離れた場所で実験することになった。
帝国製防御結界装置を起動して、その後ろには即席で作った木製の的を立てた。
私がファイアボールを撃ち込んだところ、あっさりと結界を破って的が燃え上がったよ。うん、予想通りだ。
ヨシテル将軍もシゲノリ中佐も驚きすぎて口が半開きになっている。虫が入るよ、口の中に。
新しい的を立てて、今度は結界を二重にした(防御結界装置2台を多重展開)けど、やはり貫通した。
三重、四重と試して、ようやく四重結界でなんとか防ぐことができたよ。
「三重結界でいけると思ったんですがちょっと意外でした。四重結界が必要になるとは、帝国の防御結界装置は結界強度が低いのではないですか?」
「うむむ、我が国の魔道具技師には発破をかけねばならぬな」
ヨシテル将軍が悔しそうにうなっている。ふふ、勝ったな。
でもこれで500人分の防御結界が確保できたことになる。
敵は2千人だけど、これでなんとかなりそうだ。