002 転生
目が覚めるとそこは知らない天井だった。
そして、生まれてから5歳までの記憶が一気に流れ込んできて気が狂いそう。
うむ、知らない天井ではないな。5年間よく見てた知ってる天井だ。
私の名前はマリア。
マリア・フォン・シュトレーゼン。シュトレーゼン男爵家の長女だ。
家族構成は父グラハム、母メアリ、兄シュミットの4人。
家族仲は極めて良好だ。
両親からは溺愛され、2つ年上の兄からも可愛がられている。
…って、まじで転生?夢じゃなかったのか。
ってか、プロジェクトは?やばいぞ、残されたメンバー、デスマーチ確定じゃん。まぁ、そこに巻き込まれなかっただけでも良しとするか(薄情)。
お付きのメイドを呼び鈴で呼んで、着替えや洗顔等の起床後の支度を行う。
渡された手鏡の中には西洋風の美幼女がうつっていた。やべぇ、超かわいい。
朝食をとるため食堂へと歩いていく。
すでに両親と兄が席についていた。イケメンオジサマと美魔女とショタコン垂涎のショタだ。家族全員レベル高ぇな。
「お父様、お母様、お兄様、おはようございます」
「おはよう、マリア。今日も可愛いね」
「おはよう、マリア。早く席につきなさい」
「おはよう、マリア。僕の隣においで」
父、母、兄から順に声をかけられる。
テーブルは貴族家らしく細長く割と大きい。
お誕生日席に父が、長い面の端っこに向かい合う形で母と兄が座っている。いつも通りの着席順だ。
私も兄の隣にある少し座面が高くなっている専用椅子に腰かける。
普通の椅子では食べにくいのだ。
「今日はマリアの5歳の誕生日だ。おめでとう、マリア」
「「おめでとう」」
父の発言に合わせ、母と兄からもお祝いの言葉をもらう。
「ありがとうございます。今日のお披露目パーティもがんばります」
そうなのだ。面倒くさいが貴族の子女は5歳になるとお披露目しなきゃならないらしい。まじ勘弁。
食事は普通にふわふわ白パンとスクランブルエッグ、カリカリに焼いたベーコン、コンソメスープにサラダという前世の洋食屋で出るようなメニューだった。
てか、5歳までの記憶によれば朝はいつもこれだ。
普通においしかった。飯テロは難しいかもしれない。
食後は自室でまったりと読書でもしようかと思ってたら、夜のパーティ用のドレスの調整やら髪をアップに整えたりとか忙しい状態に。
まぁ、忙しいのはまわりの人達で、私は立つか座ってるだけなんだけど…。
そんなこんなであっという間に夜のお披露目パーティの時間になった。
爵位の低い貴族の馬車がぞくぞくとやってくる。準男爵家、男爵家、子爵家。
そのあと高位貴族の馬車が到着する。伯爵家、辺境伯家、侯爵家、公爵家。
会場となる我が家の大広間では多くの貴族達が立食形式の会場を歩き回り、貴族間の交流を図っているようだ。
この中に出ていって挨拶するの?いや過ぎる。てか、緊張で足が震える。私、5歳なんだけど!
父がまず挨拶に立った。
「お集まりの皆様、今宵は我が娘マリアの5歳の披露パーティにおいでいただき誠にありがとうございました」
で私の口上だ。
「マリア・フォン・シュトレーゼンでございます。初めてお目にかかります。今後ともよろしくお願い申し上げます」
無難だ。5歳児らしからぬ長いスピーチってのも一瞬考えたけど、転生者とばれたり、天才児と思われたりするのはまずいと考え、短くまとめた。
5歳児らしい感じになったかな?
「なんと滑らかな口上。うちの孫はもっとたどたどしい感じだったというのに…」
「本当に。よほど練習したのでしょうね」
なんか高評価だ。
両親もにこにこしている。まぁ良いや。そこまでのやらかしではないだろう。
なお、通常のパーティではここからダンスに移行するらしいが、今回は私が主役なのでダンスは無し。
まだ習ってねぇよ。
兄は父と、私は母と会場を回って交流する。といっても、こちらから話しかけることができるのは同格か下位の貴族だけ。
上位の貴族からは話しかけられた時だけ返答することができる。面倒くさい。
話しかけてきた中に同い年くらいの男の子がいた。
「マリアさん、僕はリヴァスト侯爵家の嫡男、アレン・フォン・リヴァストと申します。お見知りおきを」
「マリア・フォン・シュトレーゼンと申します。お声がけありがとうございます。こちらこそどうぞよろしく」
おいおい、これまたやべぇレベルの美少年だよ。
ショタ好きのみならず腐の方々にも見せられないな、こりゃ。
「僕も先月5歳のお披露目をしたばかりなので、歳も近いし仲良くしてほしい」
「身分差もあっておそれおおいことながら、こちらこそよろしくお願いします」
上から2番目の侯爵と下から2番目の男爵だからなー。
「爵位は気にしないでほしい。親の爵位を継ぐまでは無爵なんだから」
って言ってもなぁ。まぁ良いか。5年間で培われた常識よりも前世の日本人的価値観のほうが優先される傾向にあるしな。なにしろ29年間も日本人やってたんだから。
あれ?そういえば私どうやって死んだんだ?聞いてねぇよ、あの管理者に。
「分かりました。アレン様とお呼びしてもよろしいでしょうか」
「うん、僕もマリアさんと呼ばせてもらうよ」
友達ができた。今世で初の友達だ。嬉しい!
あれ?前世で友達いたっけ?いや、小さい頃はいたはずだ。社会人になってからはいなかったが。…って言わせんな。
なお、会場にはほかにも小さい男の子や女の子もいたんだが、侯爵家の御曹司がべったりくっついているせいで話しかけてこられないらしい。
てか、アレン君やたらとぐいぐいくるな。
趣味や日課等やたらと聞いてくる。個人情報保護法!
結局パーティ終了までアレン君としかしゃべってない。
なんとなく、ほかの子と会話しないようにブロックされてたような気もしないこともないけど、自意識過剰だろうな、きっと。
アレン君、お茶会に招待するって言って帰っていったけど、すげぇ気に入られたっぽい。
まぁ、普通に嬉しいかな。あ、恋愛感情は無いよ。こっちは前世の29歳と今世の5歳合わせて34歳だけど、相手は5歳児なんだからね。私はショタコンじゃない。