197 帝国へ出発
陛下から帝国行きを打診されてから一か月、出発の準備は整った。
帝国にも通信の魔道具で特命全権大使の訪問を連絡している。
王宮から出発する私たちを陛下自ら見送りに出てきてくださったのは恐れ多いことだった。
「マリア嬢、ミカ嬢、アレン殿、ルーシーメイ嬢、ロザリー嬢、リオン殿、ブレンダ嬢、まだ若いそなたらに頼らざるを得ないこと、心苦しく思う。その任を果たすことを期待している」
私たち7人全員の名前を呼んでいただいたことに感動している皆。なにしろ王様だよ。雲の上の存在に名前を覚えてもらってるって、臣下や国民にとってどれほどの栄誉か。
出発のセレモニーも終わり、自動車が動き出した。
帝国の滞在期間がどれだけになるか分からないけど、かなりの期間になることは予想できる。もしかしたら二度と王国に帰ってこられない者もいるかもしれない。
向こうで何が起こるか分からないからね。実は全員が遺書を残しているんだよ。まぁ自分自身が死ぬつもりも、友人たちを死なせるつもりもさらさら無いけどね。
まずはシュトレーゼン領と辺境伯領との境目にある思い出のブレーン川に到着した。
ブレーン会戦のときに落とした橋はすっかり修復されて自動車も通れる立派なものになっている。
その橋を渡り、辺境伯領を一路国境へと向かう。
街道の先の国境検問所ではグラハム・フォン・グランドール辺境伯様が出迎えてくれた。わざわざ待機してくれていたみたい。
「マリア・フォン・シュトレーゼンです。お久しぶりでございます、グランドール辺境伯様」
「うむ、二年前は世話になったな。あとで王宮参謀部に聞いたのだが、俺の焦土戦術を止めてくれたのはマリア嬢だったんだな。本当に感謝している。ありがとう」
「いえ、もともと勝算がありましたので…。それにブレーン会戦があれだけうまくいったのは、辺境伯様との打ち合わせがあったからでございます」
実際、あれはうまくいきすぎだったよ。もう一度やれと言われてもできるかどうか。
「特命全権大使として帝国でも活躍することを信じているぞ。お主は親友の娘だからな。独身の俺に子供はいないが、お主のことは俺の娘とも思っている。何かあればすぐに連絡しろよ。国境侵犯してすぐに助けに行くからな」
いやいや、勝手に国境侵犯しちゃダメでしょ。国際問題になるよ。
てか、独身なの?大丈夫なの?跡継ぎはどうするの?他人事ながら心配になってきたよ。