191 転移魔法②
すっかり春めいて暖かくなってきた今日この頃。社会人生活も3年目に突入です。
共和国に派遣されていた王国軍3個師団が王都に帰還し、すぐに第2師団と第3師団がグランドール辺境伯領へ移動した。軍人さんは大変だね。
これで帝国と対峙するのは王国常備軍3個師団と辺境伯軍1個旅団を合わせた約3万5千人ってことになる。
第1師団は王都に残るんだけど、第1師団長のヒンデンブルグ公爵様がうちの屋敷にわざわざ挨拶に来たのには家族全員驚いたよ。防御結界装置や自動車、なにより治癒魔道具のお礼だって。
ちなみに、王国軍が帝国領への逆侵攻を図ることは無いだろうけど、いつでも侵攻できるぞという圧力をかけておくのは有効な戦略だよね。
帝国側もさすがにこれを無視できなかったのか、1個軍(4個師団)を国境に展開している。うん、敵の大兵力をうまく拘束できているね。
これで、旧ファインラント王国やその他の小国への圧力を減らすことができているはずだ。
で、懸案の転移魔法なんだけど、実は生物の格納(すぐに出すんだけど)には成功した。その際、異次元倉庫は不要だったんだけど、おそらくセキュリティは確保できてないだろう(他の人もアクセスできるはず)。まぁ、入れっぱなしにはしないから大丈夫だね。
これで生物転移の可能性が高まった。ちなみに実験対象生物はいつものごとくGだ。いつもお世話になっております。
問題は取り出し位置の座標情報なんだよね。絶対座標ではなく相対位置指定だったんだけど、数値の意味を調べるのにめちゃくちゃ苦労した。てか、この調査に二か月以上はかかっている。
実はアイテムボックスでは格納対象の指定も目視指定なんだけど、調べてみるとどうやらこちらも相対的な座標指定だったみたい。
ここで思いついたのが、引き寄せの魔法だ。いわゆるアポートって呼ばれているものだね。
透明なガラスの箱の中に生きたGを入れて、それをかなり離れた位置に置いておく。転移魔法(もちろん検証用)を発動し、入力位置はGの箱、出力位置は目の前のテーブルの上とした。
Gは元気に生きたままで、箱の引き寄せに成功したよ。これってすごいんじゃない?
実験を繰り返して判明したのが、出力位置に何か空気以外のものが存在する場合、出力できなかったってことだな。出現位置にあったものと融合したりしたら嫌だから、それについては良かった。
でも入力は成功しているので、転移対象は異次元空間に消えたよ。しかも倉庫じゃないので二度と取り出せないのだ。あぁ、さらばG。異次元で繁殖したりしないだろうな。あ、時間が止まってるから大丈夫か。
出力できないかどうかを事前に調べて、できなければ入力を行わないようにする安全装置を付けないとな。人間で実験しなくて良かったよ。
あれ?でもチェックが通った後の一瞬でそこに何かが飛んで来たら?例えば鳥や虫など。
やはり異次元空間からは出られなくなるね。うむ、やはり生物は転移対象にしないようにしたほうが良さそうだ。特に自分自身では試したくないね(この世界から失踪することになるかもしれない)。
結論としては転移魔法はできなくはないけど、危険だから封印だね。古代人がアイテムボックスの魔法陣を作った際、生物を格納禁止にしたのも同じような理由だろう。
攻撃魔法としても凶悪過ぎるしね(敵を異次元空間に送って、この世から消し去ってしまうこともできるので)。はっ、完全犯罪!死体の処理が不要だし、絶対に発覚しないよ、これ。
うむ、この実験結果の資料は全て破棄しよう。もったいないけど。
この魔法陣に関する秘密については墓場まで持っていくことを決意する私だった。