189 帝国軍の撤退
リヴァスト領から王都に帰ってきてからもう数か月経つ。
世の中はすっかり冬の装いだ。社会情勢についてだけど、我が王国内はとても安定している。帝国との戦争中とは思えないくらい賑やかで景気も良い。
でも常備軍4個師団の内、3個師団は共和国に行きっぱなしだし、辺境伯領にいる8万人の捕虜もそのままだ。
私は社会人になってから2回目の冬を迎えてるんだけど、結婚の(いや婚約すら)話がやってこない。貴族令嬢として大丈夫なのか?
まぁ両親ものんびりしてるし、シャルロッテさんというお一人様の大先輩もいるから私もそんなに焦ってないけどね。
そんなときに帝国と共和国との戦争に進展が生じた。
国境砦を攻めていた帝国軍3個軍(12個師団…消耗しているので実質10個師団程度か?)が、1個軍(4個師団)の戦力を防衛のために残して撤退したとの報告が入ったのだ。
ついに共和国への侵攻を諦めたのか。撤退判断が遅い、遅すぎるよ。帝国皇帝は無能か?
講和の申し出は無いようなので、戦争は終結していないんだけどね。
撤退した兵力(およそ6万人程度と見込まれる)がどの方面に振り向けられるのか分からないため、王宮にも緊張が走っているらしい。
まさかもう一度グランドール辺境伯領を攻めるなんてことはないよね?何度来ても戦略級魔法の餌食だよ。
とにかく帝国の動向を注視しておく必要があるね。一つ言えるのは、これでファインラント王国の復活は難しくなったかもしれないってことだな。
いや、ファインラント亡命政府の存在こそが、撤退判断材料の一つになったのかもしれないね。真実は分からんけど。
ミカ様の祖国への帰還や地下抵抗組織への自動連射装置の供与についても目途が立っていないのに。
しばらくすると続報が入ってきた。
帝国国内で活動する王国の密偵からの報告だ。
撤退した兵力は約6万3千人。全て帝都ガルムンドに帰還したそうだ。このあと周辺の小国に師団単位で派遣するのではないか、というのが王宮参謀部の推測だ。
そこで共和国の国境砦に常駐する王国軍3個師団を王都に帰還させるように手配を始めたとのこと。3万人の移動は大変だからね。
参謀部では帰還した3個師団のうち2個師団をグランドール辺境伯領に派遣するつもりだそうだ。まさか帝国への逆侵攻を考えてる?いや、まさかね。
これらの機密情報は、王宮中枢にいるリヴァスト侯爵様や逓信部長のシャミュア子爵様からの情報をアレンやルーシーちゃん経由で得た結果だ。情報は重要です。ありがたい。