184 武術大会槍術部門
ガルム帝国はファインラント亡命政府を正当性のないテロリストと断定、それを支援する共和国を非難した。
これでまた講和が遠のいたんじゃないか?
戦争が終わらねぇ。どうすんの、これ?終着点が見えないよ。まぁ終わらないほうが、ファインラント復活のためには良いんだけどね。
旧ファインラント国内(現帝国直轄領)に地下抵抗組織が誕生したとの噂も聞こえてきた。ルーシーちゃん情報(てか、シャミュア家の情報網による)だけど。
帝国要人の暗殺を企てたりはしていないみたいなので、テロリストってわけではないみたいだけど。
この組織に自動連射装置を供給すれば、帝国にとってかなりの脅威になるはずだ。そこまで運んでいく方法を思いつかないけど。
そうそう、試作品段階だった精密射撃装置と自動連射装置は完成したよ。
精密射撃装置は1台だけ、自動連射装置は20台ほど作ってもらった(挺ではなく台と言っているのは魔道具だから)。倉庫に置いておくのも不用心なので、私のアイテムボックスに全て入れているけどね。
もっとも精密射撃装置の遠距離射撃テストはできていないんだよなぁ(防御結界装置によって、近距離の射撃テストは行っている)。
なお、今回は陛下への献上も無しだ。これを知られたら絶対に量産命令がくるだろうし。
それと、シャルロッテさんに望遠鏡を作ってもらった。倍率30倍のものを。もちろんレンズ代金や組み立て費用などは私のポケットマネーから出してるよ。
これをマジックサーチと組み合わせれば、奇襲を防ぐ体制としては完璧だろう。
私はミカ様の護衛(SP)でもあるんだから、気を使って使い過ぎることはない。
そうしてやってきた高等学院の武術大会の日。
お兄様とお義姉さまは仕事で来られないけど、ミカ様、アレン、ルーシーちゃん、ブレンダ、私の5人は高等学院の門をくぐった。久しぶりだな、懐かしい。
槍術部門会場のほうへ進み、第1試合の開始を待つ。
ロザリーちゃんは生徒会副会長として色々と忙しいようで、ここには来ていない。残念。
周りの在校生たちの噂話に耳を傾けていると、予選会で2年生ながらも圧倒的な強さを見せた期待の新星がいるらしい。…って、それってリオン君だろ、どう考えても。
しばらくしてから開催の宣言とともに第1試合が始まった。
長槍の試合なので、間合いが長い。対戦相手の槍を巻き込んで跳ね上げたりと、剣とは全く違うね。なかなか槍も面白いな。てか、この間合いの長さは脅威だよな。さすがは武器の王。
第3試合の出場者2名が姿を現した。リオン君の登場だ。ミカ様も目を輝かせているよ。
勝負は一瞬でついた。リオン君の圧勝だったよ。これでベスト16だね。
次の試合も、次の次の試合も危なげなく勝利し、ついにベスト4。
準決勝の相手は最上級生でAクラスの先輩だ。さすがに圧勝とはいかず一進一退の攻防の末、相手の一瞬の隙を見逃さず勝利したのはリオン君だった。良い試合だった。手に汗握ったよ。
会場は大盛り上がりだよ。なにしろ2年生が決勝に残ったんだから。もしかしたら学院初の快挙かもしれないね。
決勝戦前のインターバルでリオン君が私たちのもとへやってきた。
「マリア姉ちゃん、見に来てくれたんだ。ミカ様も来ていただいて光栄です」
「リオン君、すごかったよ。決勝戦は気負わず平常心で挑んでね」
私の言葉に続いて、ミカ様も頬を赤く染めて微笑みながら発言した。
「リオン様、厳しい鍛錬をなさったんでしょうね。尊敬致します」
「いえ、そんな。僕の才能を見出してくれたのはマリア姉ちゃんなんですよ」
「そうなんですか。さすがはマリア様です。周囲の人々を幸せにする天使のような方ですね」
はっ、いかん。ミカ様、その発言はルーシーちゃんのスイッチを押しちゃう。
「ミカ様にもマリアちゃんの真の姿が分かってしまったのですね。ともにマリアちゃんを崇めましょう」
「ミカ様、これはルーシーちゃんのいつもの冗談だからね。気にしないでくださいね」
すぐに否定しておかないと、ブレンダも混ざってエスカレートするおそれが…。
ここでアレンのKY発言(いや、わざとかも?)が飛び出した。
「リオン君、決勝も頑張ってくれたまえ。ミカ様の御心を射止められるように」
「はぁぁぁ?何を言ってくれちゃってるのか、アレン様は。射止めるも何も、僕が射止めたいのはマリア姉ちゃんの心ですよ」
「うむ、それは無理なので男らしく諦めなさい」
この二人、何でいつもこうなんだ?相性が良いのか悪いのかさっぱり分かんないな。
ブレンダがこっそりとミカ様に耳打ちしているのが聞こえてくる。
「アレン様とリオン君はマリアのことが好きなんだよ。いわゆるライバルだね。でも安心して。マリアの心はアレン様に向いてるから、リオン君はフリーだよ」
ちょっとブレンダ、何を言ってくれちゃってるの?うう、恥ずかしい。