017 度量衡と属性
この世界の様々な単位だけど、なんと前世と全く同じだった。
時間は年月日時分秒で、1年は365日で12か月、1日は24時間、1時間は60分で1分は60秒だ。
長さの単位はメートルで補助単位としてのキロやセンチ、ミリなんかも全く同じ。
重さはグラムで、やはり補助単位のキロやミリが使える。
どうなってんだ?これ。
管理者は『似たような物理定数を持つ世界をまとめて管理』って言ってたけど、光速度とかがほとんど同じでも惑星の公転速度や自転速度が同じになるわけないのにな。謎だ。
あと、メートルやグラムについては絶対転生者がこちらに来ているよな。どこの国の人かは知らんが、英米人じゃないことだけは確かだ。ヤードやポンドとかの単位じゃなくて良かったよ、まじで。
こういう社会の常識的なこともナタリア先生から教わった。
読み書き・計算・魔法に加えて社会の勉強だ。この間の博物館見学も社会の授業の一環らしい。私にとっては魔法の授業だったが。
もしかして理科の授業もやるのかな?アサガオを育てたり、毎日の気温を計測してグラフを作ったり?
なお、温度の単位はやはり度で、なんと摂氏だった。華氏じゃなかったのはありがたい。いやいやセルシウス氏がこの世界にもいたのかよ。
謎だらけだけど、もうね、過去の転生者のせいってことにしよう。70~80年くらい前に標準化が行われたらしいので、きっと100年前くらいに地球から転生した人がいたんだよ。
「先生、質問があります」
「はい、何でしょう?マリア様」
「我が国は王制ということですが、王制ではない国もあるのでしょうか?」
「はい、我が国グレンテイン王国は王制ですが、例えば隣国のガルム帝国は帝政、ほかにも共和制や立憲君主制などの国もありますよ」
「それらはどういうものなんでしょうか?」
「王制では王様に全ての権力が集中しています。政務を宰相や大臣が補佐する形ですが、最終決定権は王様にあります」
5歳児には難しい言葉を遠慮なく使うナタリア先生も大概だな。私が理解できると確信して使ってるよ。
帝政、共和制、立憲君主制についても説明を受けたが、まぁもともと知ってるんだよな。
その後、拷問である計算の授業も終わり(まだ引き算)、お楽しみの魔法の授業だ。
「マリア様、今日は属性についての授業を行います」
ほほう、火や水の基礎的な詠唱魔法をやってきたが、やっと属性の説明か。てか、最初にするべきじゃないのか?
「属性とは火や水のことですか?」
「そうです。この世界には4つの属性があって、そこに様々な魔法が分類されています」
はっ?4つ?あれ、おかしいな。魔導書の分類はもっと多かったような。
「属性は火・水・風・土の4つです。全ての魔法はこの4つのどれかに属しますね」
「スモールファイアやファイアアローが火で、ウォーターカッターが水ですか?」
まぁ一応分かってるけど聞いておく。5歳だからね。
「その通りです。やはりマリア様は素晴らしい理解度ですね」
何とも言えない顔でナタリア先生の称賛を受けるが、カンニングしてる気分だ。
そんなことより4属性は少なすぎるよ。光・闇・鑑定・空間はどこにいった?
「先生、明るくしたり、暗くしたり、ものの性質を調べたり、次元を移動するような魔法は無いのですか?」
「明るくするには火属性の魔法を使いますし、それ以外は聞いたことがありません」
人差し指を頬にあてて首を傾げながら答えるナタリア先生、可愛いな。
「あの、魔道具のランプのように光を出すのはどの属性になるのですか?」
「あ、そういえば4属性には当てはまりませんね。魔道具は専門外なので答えられずすみません」
いや、知らないことを知らないと言える先生は立派だ。知ったかぶりは最悪だからね。
「もしもランプの魔道具が光という属性になるのなら、魔法でも光を出すことはできないでしょうか?」
「魔法の5つ目の属性になりますね。なぜ今まで誰も考えなかったんだろう?」
最後は独り言のようにつぶやいたナタリア先生だが、おもむろに詠唱を始めた。
「光の精霊に対し奉る、我が指先に小さな光を灯す奇跡を賜らんことを。スモールライト」
その瞬間、ナタリア先生の指先が発光した。おそらく適当に呪文を作ったのだろうが、魔法を発動した先生のほうが驚愕している。
光はすぐに消えてしまったが、魔力量の許す限り発光させ続けることもできるんじゃないか?
あと魔法名が適当で問題ないのか?
実は魔法名には意味がないことに私は気付いている。これは発動のトリガーであり、呪文というコマンドを入力した後、エンターキーを押す行為に他ならない。
だから「指先に小さな火を灯せ。スモールファイア」を「指先に小さな火を灯せ。ウォーターカッター」としてもスモールファイアが発動するのだ。
これは対人戦においては使える技術だろう。相手にこちらの使う魔法がばれると対抗されてしまうので、呪文を小声で唱え、魔法名を大声で発動すれば相手は戸惑うに違いない。
これはナタリア先生も知らないし、私も言う気はない。対人戦の切り札だからね。
「先生、すごいです。光りましたよ」
「そ、そ、そうですね。光りましたね。えっ?まじで?」
ナタリア先生の動揺がすごい。そりゃそうか、適当に言ってみたら光ったんだから。
でも私にとっては予想通りの結果だ。呪文で世界というOSに語り掛ければ魔法は発動するんだからな。
「私もやってみます。指先を10秒間発光させよ。スモールライト」
魔法名はナタリア先生のをパクった。きっちり10秒間光り続けて消えたが、ナタリア先生が目を丸くして私を見ている。
私、なにかやっちゃいましたか?
「マ、マ、マリア様、発動時間指定って…」
やばい、絶句しているようだ。
これはごまかすしかない。
「先生のおかげです。スモールライトという魔法があったんですね。すごいです、大発見です」
ドラ〇もんの秘密道具のような魔法名だが著作権的に大丈夫だろうか?ドキドキ。
「そ、そうですね。論文を書いて発表すれば学会が大騒ぎになるかも」
え?そこまでのこと?
なんか大事になりそうな予感。
「マリア様のお名前も共同開発者として出させていただいてよろしいでしょうか?」
「いやいや、すみませんがそれはやめてください。私の名前は一切出さないようにお願いします」
ほんと勘弁して!目立ちたくないの。