167 通信の魔道具①
通信の魔道具、つまり無線電話がまさにプロセス間通信なんじゃないかな?
だって電気の概念が無い世界で、さらに電波(電磁波)という存在も知らないのに無線通信しているんだよ。
王都と辺境伯領の間で通信できたということは電波だとしたら短波(HF)になる。電離層反射が無いと到達不可能な距離だからね。
超短波(VHF)や極超短波(UHF)ではないことは確実だ。
なのに通信の魔道具にはアンテナが無かった。短波ならかなり長いアンテナが必要になるからね。スマホのように短いアンテナが内蔵されているような形状は、極超短波(UHF)でないと無理なんだよ。
結論としては、通信の魔道具は電波による通信ではないということだ。だったら何だ?OS経由のプロセス間通信しか考えられないよ。
通信の魔道具は軍用であり、手に入れられないため分解することもできない。まぁ分解しても自動的に壊れるから(耐タンパ性)、解析は難しいんだけど。
これは推測なんだけど、通信の魔道具は起動時にその魔道具固有のID番号を登録して起動し、待機状態に入る。
もう一台の魔道具を起動して通信相手のID番号を指定することでコネクトされる。
あとは双方向に言語メッセージをやり取りできる。つまりID番号はいわゆる電話番号ってことだね。
このとき一方の魔道具の言語設定をグレンテイン語に、もう一方の魔道具の言語設定をアメリーゴ語にすることで翻訳機にならないかな?
あれ?ID番号を勝手に割り振ると番号が重複して困ったことになるな。インターネットで使用するグローバルIPアドレスと同じだ。つまり、ID番号を割り当てる世界唯一の機関が必要になる。前世のICANNのような。
王宮の中の通信魔道具を統括している部門の担当者に聞いてみたい。もしくは魔道具工房に。
機密情報として教えてもらえないかもしれないけどね。
行き詰まっていると朗報が陛下からもたらされた。
今回の仕事(共和国への旅行)の報酬として何が良いか、希望を聞かれたのだ。迷わず『通信魔道具の統括責任者から情報を得ること』を陛下に申し出たら、あっさり許可された。あれ?そんなに簡単に許可して良いものなの?
疑問は抱いたものの渡りに船なので、先方とアポイントメントをとってから王宮に出向いた。ちなみに単独行動です。
「シュトレーゼン男爵家のマリアと申します。このたびはご無理を言って申し訳ありませんでした。本日はよろしくお願い申し上げます」
「逓信部の部長を務めさせていただいておりますシャミュア子爵家当主グレゴールです。いつも娘たちがお世話になっております」
は?シャミュア子爵家?…って、まさかのルーシーちゃんとロザリーちゃんのパパさん?
目を丸くして驚いている私に『サプライズ大成功!』って感じで微笑む、ロマンスグレーの髪でお髭が素敵なイケてるおじさんだった。
「本日は通信の魔道具の詳細をお知りになりたいとのことですが、マリア嬢のご質問に答える形で進めていってもよろしいでしょうか?」
「はい、それでお願いします。まずは根本的な仕組みなんですが…」
私は自分の推測を語ってそれが正解なのかを確認したところ、概ね正解だった。間違っていたのはID番号の割り当て方法。
ICANNのような全世界的な組織は無く、10桁のID番号の中で先頭の2桁を国番号として割り当てる約束事が定められているだけだそうだ。度量衡(重さや長さの単位)の統一が全世界で行われた際、同時に決められたんだって。ならば答えは一つ、過去の転生者の功績だな。先頭2桁が国番号ってJANコードみたいだね。
「我が国の国番号は21です。あとの8桁はその国の中で自由に定めることができますが、重複を避けるため我が国では逓信部で一括して割り当てを行っています」
「残り8桁の割り当ては連番ですか?」
「いいえ、用途によって分類するため2桁を分類番号、残りの6桁を連番にしていますね」
分類番号は01から
・01~04…王宮と各貴族家領地を結ぶための番号(現在使っているのは01のみ)
・05~30…軍用番号(現在使っているのは05のみ)
・31~50…研究開発を行う各魔道具工房に割り当てる番号(割り当て済みなのは31~38まで)
・51~99…予備番号
となっているそうだ(00は割り当てない)。
一つの分類番号で100万台の魔道具に番号を振れるので、分類番号に関してはほとんどが未使用だ。かなり余裕を持った構成にしているね。だったらうちにも一つ貰えるかな?
「申請すれば魔道具工房用の番号を割り当てていただけるのでしょうか?」
「ええ、信頼できる工房であるかどうかの審査はありますが、シュトレーゼン家の工房でしたら全く問題なく発行できますよ」
やたっ!工房番号(多分、39になるのかな?)を貰えれば、色々と実験が捗るよ。