165 国境砦を出発
あのあとヒンデンブルグ公はすぐさま部下に調査を命じたそうだ。
翌々日には詳細な報告があがってきたらしく、私たちにも教えてくれた。
確かに山の中の抜け道は存在していて、問題なく山の向こう側とこちら側を行き来できるらしい。こちら側の山の入口に(アメリーゴ軍には内緒で)こっそりと哨戒所を建てて警戒にあたるとともに、将来アメリーゴ軍がガルム帝国に侵攻する際に使われないようにしなければならない。
王国にとってはどちらの国も敵国になる可能性があるからね。アメリーゴ共和国が勝ち過ぎるのも王国にとっては望ましくないのだ。
あー、でも王国軍がここを撤退して母国へ戻るときはどうするんだろ?厄介な情報を伝えてしまって申し訳ない。でも面倒くさいから対応についてはお任せします。
なお、私にはもう一つの侵攻ルートが頭に浮かんでいる。義経の鵯越ならぬ山肌が急峻な崖のようになっている個所を落下傘で降下するというものだ。自動車や船外機で使っている推進器の魔道具を組み合わせればパラグライダーになる。そして、パラシュートだけでは危険な崖であっても、パラグライダーなら安全に降下できるはずだ。私自身は絶対にやりたくないけど…。
まさに習志野第一空挺団だね。かっこいい。おっと、もちろん第一空挺は落下傘部隊であって、パラグライダーは使いません。
ちなみにこの世界、まだ落下傘は発明されていない。
そして砦を出発して王都へ戻る日になった。
帰路もカイルさん率いる2個分隊が護衛として同行する。荷馬車の荷台は空っぽだけどね。
わざわざヒンデンブルグ公が自ら見送りに出てきてくれた。恐れ多い。
「マリア嬢、アレン殿、ルーシーメイ嬢、リオン君。お主たちが来てくれて本当に良かったわい。王国軍将兵一同を代表してお礼申し上げる。何か困ったことがあったら、遠慮なくヒンデンブルグ家を頼ってくれ。たいていのことには儂が力になれると思うぞ」
おお、強力なコネ、ゲットだね。私はともかくルーシーちゃんやリオン君にとっては良い縁を結べたんじゃないかな。
ほかにも、すっかり元気になった元怪我人の人たちや衛生兵さんたちが見送ってくれた。涙を浮かべている人もいる。やっぱり治癒魔道具を作って良かったな。
ヒンデンブルグ公や皆さんに挨拶して、カイルさん率いる輜重部隊とともに帰路に就いた私たちだった。