164 攻略方法
私たちが来たときの王国軍の兵力損耗率は約10%で、死者は少ないようだけど負傷者は3千人近くいたそうだ。
それが治癒魔道具でほとんど回復してしまったんだからすごいよね。だいたい1個連隊分の増援があったのと同じだよ。
アメリーゴ軍側の常備軍3個師団の損耗率は30%以上だったらしいけど、それって本来なら全滅判定されるくらいの割合だ。開戦初期の激闘で(王国の援軍が来るまでに)かなりの死傷者が出たらしいよ。現在は急遽動員した2個師団が援軍として到着していて、既存の3個師団についても再編成して2個師団に組み替えられているため、合計で4個師団の兵力になっている。
王国軍を合わせると7個師団だけど、帝国の12個師団にはまだ及ばない。もちろん帝国側の死傷者数もかなりのものだと推測されるので、実質10個か11個師団くらいだと思うけど。
なお、現時点では戦友であるアメリーゴ軍に治癒魔道具を使用するかどうかは、現場の判断に任せるとの陛下のご意向だ。もちろん贈与や貸与それに販売については絶対禁止。
まぁその効果を見せちゃうと、欲しがることは間違いないだろうけどね。
その辺は派遣軍司令官であるヒンデンブルグ公に丸投げだ。私たちがずっとここにいるわけじゃないので。
ただし、アメリーゴ軍の傷病兵はすぐに後送(後方の街の病院に送られる)されてしまうので、砦にはほとんどいない。なので治癒魔道具を使うことは現時点では無いかな。
私たちの旅の日程については、帰りも12日間を予定しているため、砦の滞在日数が5日間として往復一か月の旅となる。
帰ったら仕事が山積みになってるなんてことはないと信じてるけど、それでもあまり長居はできないね。
砦に来て三日目、もう私たちの仕事はほとんど終わったため、すっかり暇になっている。
砦の屋上の開けたところに立つと目の前に300メートルほどの細い道がまっすぐに延びている。両側が切り立った崖になっており、隘路の正面にはガルム帝国の砦が見えている。
帝国はよくここを攻めようと思ったなってくらい、お互いに難攻不落な感じだよ。
私の両側にはルーシーちゃんとリオン君が、すぐ前にはアレンが立っている。私が3人に護衛されているような感じになっているけど何でだ?ルーシーちゃんも護衛対象のはずなのに。
景色を眺めていると後ろから声をかけられた。
「マリア嬢、お主ならこの砦をどう攻める?」
後ろに立っていたのはヒンデンブルグ公爵様だった。なんで私に聞くかな?アレンやリオン君もいるのに。
まぁ聞かれたからには答えよう。
「私が帝国軍司令官としてこの砦を攻める場合、まず初動の攻勢に失敗した以上、正攻法での攻略は断念しますね」
「ふむ、その理由は?」
「もしも我が軍が使用している携帯型防御結界装置があれば、矢を防ぐための鉄の盾と合わせて力押しで攻略を図ることもできます。ですが帝国には効果の弱い防御結界装置しか無い。その状態でこの隘路を300メートルも進軍していくのは、損害が増すばかりであり攻略の目途は立ちません。もちろん攻撃魔法の射程距離が30メートル程度だとしてもです」
「ふむ、それではどうするね?」
「私の見たところ、進撃路はここだけではありません。この隘路に陽動を仕掛け、主力は別ルートから山を越えさせます。あとは正面からの陽動部隊とこの砦の背後から迫る主力部隊で挟撃すれば、この程度の砦などたやすく落ちるはずです」
「な、何ぃー?そ、その別ルートとはどこだね?」
この情報を私が知っている理由は、数日前の水戸黄門イベントにある。
悪人3人と善人1人の4人組は、この山で狩猟を行う猟師たちだった。戦争が始まったため山で猟ができなくなり、善人1号さんの故郷であり砦からはかなり離れているあの街でくすぶっていたらしい。
土下座イベントのあと、善人1号さんから教えてもらったのだ。あの山の中にある猟師たちしか知らない抜け道を。不法に国境を越えることのできるルートなので、猟師仲間の中では秘密厳守だった情報なんだけど、あの件のお詫びとして教えてもらったんだよね。
そこは一人ずつしか通れない獣道なんだけど、時間をかけさえすれば大部隊が移動できるルートらしい。
もしも帝国軍がそこを発見したらやばいけど、まず見つけられないだろうと善人1号さんが言っていた。ちなみに、抜け道の詳しい地図を書いてもらったので、ヒンデンブルグ公にそのまま渡して、情報を得た経緯も説明したらなんか危険物を見るような目で見られたよ。あれ?なんでだ?