163 治癒魔道具の説明
砦に到着した翌日、大会議室に大隊長クラスの指揮官50名が集められた。
あと、戦いで傷を負った人を3名ほど同席させている。もちろん自力で歩ける人たちだ。
ヒンデンブルグ公爵様もいるね。私の二つ名について尋ねたい…。
「皆様、はじめまして。マリア・フォン・シュトレーゼンと申します。今回お集まりいただきましたのは、こちらの魔道具のご説明をさせていただくためです。攻撃用でも防御用でもありませんが、必ず皆様のお役に立てるものであると断言致します」
攻撃用でも防御用でもないと言った時点で、半分くらいの人たちの顔に失望の色が浮かんだ。
分かるよ。膠着状態のこの戦況を覆すことができるような画期的な兵器を期待していたんだろうね。
「百聞は一見に如かずと申しますし、実際に見ていただきましょう」
怪我人の一人、腕に包帯を巻いている人の包帯をほどいて患部を露出させた。魔法攻撃による火傷だね。結構ひどい状態だ。
アレンが治癒魔道具の一つを手に取り、腕の火傷痕に向けて起動させた。半透明の球体が出現し、それが患部と重なっている。
と、見る見るうちに火傷痕が修復されていく。まさに劇的だ。
経過を注視していた大隊長さんたちから驚きの声があがった。
あと二人、足の骨折で松葉杖をついている人と、肩に矢傷を負ったために腕が動かなくなっている人に対しても治癒を実行する。
治療を施して完治した3人は、驚きと喜びが混ざり合った何とも言えない表情をしている。これが現実とはとても信じられないって感じかな。
会議室の中は大歓声ですよ。そりゃ今まで不可能とされてきた治癒魔法だからね。うん、分かる。
ヒンデンブルグ公が場を鎮めるように発言した。
「マリア嬢、この魔道具はお主が発明したのかな?」
「いえ、シュトレーゼンの魔道具工房で製作しているものではありますが、発明者につきまして明かすことはご容赦くださいませ」
「ふむ、なるほど。確かにこれだけの発明、その者の身の安全を図るためにも軽々には明かせぬか…」
「ご理解いただけましたこと、感謝申し上げます」
それから治癒魔道具の詳細について、ルーシーちゃんから説明してもらった。
病気には効かないことや魔石の交換時期などだね。
最後に私の発言で締めくくった。
「今回運んできたのは最初の量産機である200台です。この数では1個中隊150名に一つという割り当てになりますが、最終的には1個分隊10名に一つを配備できるように現在増産しております。随時運んで参りますので今しばらくお待ちいただければと思います」
会議室内にいる全員が椅子から立ち上がって拍手した。おお、スタンディングオベーションだよ。喜んでもらえたようで良かった。