160 共和国への旅③
輜重部隊の馬車は幌の付いた荷馬車なので、私たちの馬車も同じものにしている。普通の貴族用の馬車だと目立つからね。
今、御者台にいるのは私と周囲を警戒するリオン君の二人で、アレンとルーシーちゃんは荷台で休憩している。
リオン君は短槍を背負い、長槍を手に持って立てている状態だ。軽い革の鎧を身に着け、護衛として気を張っている。そんなに気張らなくても良いよ。定期的にマジックサーチを使っているし。
軍の輜重部隊を襲う盗賊はいないだろうし、気を付けなくてはいけないのは帝国のゲリラ兵くらいだね。
魔法攻撃だったら防御結界があるから全然大丈夫なんだけど、弓矢だけは怖いね。またアレンが死にかけたときみたいなことは起こってほしくない。まぁ70メートル先から近付いてくる者がいればマジックサーチで分かるので、それだけ警戒していれば良いだろう。
なお、私たちの馬車は街道を進む隊列の3番手なので、最も安全だ。先頭や最後尾の馬車で戦闘が始まってからでも十分に対処できる。
「マリア姉ちゃん、寒くないかい?このブランケットを膝にかけるといいよ」
リオン君が荷台から毛布を取って、私に手渡してくれた。もう冬なので、防寒装備は着けているけど、御者台が寒いのは確かだね。
「ありがとう、リオン君。そういえば学院はどうなの?ガールフレンドでもできた?」
「友達なら少しはできたよ。Aクラスは魔法組が多いから、武術組の僕は少し肩身が狭いけど…。それにうちの家格が低いせいもあって、貴族よりも平民の子とよく話しているよ」
ほほう、今年もAクラスに平民の子が入ったのか。それは優秀だな。
「その平民の子とは仲良くしたほうが良いよ。で、男の子?女の子?」
ワクワクしながら私が聞くと、嫌そうな顔をしながらリオン君が答えた。
「女の子だよ。魔法組の」
おお、ロマンスの香りが…。
「ねえ、可愛い?美人?どんな娘なのかな?」
「マリア姉ちゃんほど可愛くもないし、美人でもないよ」
突然後ろの荷台から声がかかった。
「嘘ですわね。うちの情報網によればとても可愛い娘だと報告が入っていますわよ。もちろん『マリアちゃんほどではない』というご意見には激しく同意致しますが」
ルーシーちゃん、だからシャミュア家の情報網って何なの?秘密情報部なの?
さらにアレンも口を挟んできた。
「リオン君、良かったな。君が平民になればその娘と一緒になれるよ」
「アレン様、冗談もいい加減にしていただきたい。僕の将来の目標はマリア姉ちゃんの隣に立つことですよ」
「その隣には僕がいるからね。君の立つ余地は無いよ」
まーた、喧嘩が始まったよ。この二人、相性悪いよね。
そんな感じで旅は滞りなく進んでいったのだった。