159 共和国への旅②
輜重部隊は自動車化されていないので、馬車がメインとなる。
その規模は2個分隊20名で、5台の馬車を運用する。1台の馬車には交代要員を含めた御者役の兵士が2名いるので、馬車の周りを固める護衛の騎馬は10騎ということになるね。
これに私たちの乗る馬車が1台加わって総勢6台の馬車になるんだけど、6台の馬車群を10騎で護衛するのは、オペレーションズ・リサーチで考えるとどうなんだろうね。この世界には、まだORは無いけど。
あと、この部隊には魔法使いがいないから攻撃力の面で不安があるけど、携帯型防御結界装置は10台(二人に一つ)装備されていて防御面では万全だ。
もちろん、何かあれば私たち3人(アレン、ルーシーちゃん、私)が魔法攻撃の戦力として、その力を発揮するつもりだけどね。
ちなみに私たちが乗るのが自動車ではなく馬車なのは、部隊と足並みを揃えるためなのと自動車が無いからだ。うちにはまだ1台の三輪自動車が残っているけど資材運搬用だから使えないしね。
私たちの馬車が集合地点に到着すると、輜重部隊の指揮官となる第1分隊長さんが挨拶に来た。なお、御者は私が務めている。3年前にアレンのリヴァスト領へ遊びに行ったときにはできなかったけど、あれから練習してできるようになったのだ。もちろんアレンやルーシーちゃんも御者の練習をしたので、交代要員もばっちりだ。
「アレン様、ルーシーメイ様、マリア様、リオン様。この部隊の指揮を務めさせていただきます第1分隊長のカイルと申します。目的地までしっかりとお守り致しますので、どうぞよろしくお願い申し上げます」
私たち全員が貴族子弟であるためだろう、丁寧な態度と口ぶりが特徴的な、50代くらいのおじさんが指揮官だった。年齢的には予備役か後備役って感じだね。
私が代表して挨拶する。
「ご丁寧にありがとうございます。ご迷惑をおかけしますが、こちらこそよろしくお願い致します」
カイルさんがちょっと驚いている。こんな腰の低い貴族見たことねぇよって感じの顔だ。
私が陛下から預かっていた陛下直筆の命令書(陛下のサイン入り)をカイルさんに渡すと、それを一読したカイルさんがいきなり私たちに土下座した。周りの部下の人たちが何事?って感じで見ているよ。目立つからやめてね。印籠を取り出したときみたいだよ。控えおろう、この紋所が目に入らぬか。
「も、も、も、申し訳ありません。ご無礼の段、平にご容赦を」
「いえ、ちょっと困りますので立っていただけますか。目立ってるので」
てか、陛下の命令書には別に大したことは書いてなかったはずだけどな。
「陛下直筆のサインが入った命令書なんて、普通の人は目にできないからね」
アレンが呆れたように言ったけど、悪いのは陛下であって私じゃないよね。
とにかく出発前から一悶着あったけど、カイルさんが部下たち全員に説明してようやく出発することができた。
昼夜を問わず進めば、アメリーゴ共和国に入るまで片道三日、そこからガルム帝国との国境砦に至るまで片道四日の道のりだ。
緊急の輸送ではないので、途中の街にも立ち寄りながらゆっくりと進むらしい。なので、共和国まで五日間、そこから砦まで七日間の合計12日間の予定になっている。でも急がなくて良いのかな?運んでいるのは治癒魔道具なんだから緊急性は高いと思うんだけど。
カイルさんに戦況を聞いてみると、戦闘は小康状態になっていてプチ休戦状態と言っても良いらしい。帝国側が攻めあぐねている感じだね。こちらから攻め込む余力は無いので、帝国が来なければ暇らしいよ。
むー、だったらさっさと撤退しろよ、帝国野郎。