152 実証実験②
会議室に戻った私たちは、以下の内容を治療院側に説明した。
・治癒の『場』を形成することによる間接的治癒効果である
・間接的であるがゆえに副作用はないはずだが検証はできていない
・影響範囲は球体であり、半透明にしているのは分かりやすくするため
・発動時間は30秒から5分まで設定できる
・魔石の持続時間は不明
・治療に必要な発動時間も不明
・魔道具から50センチメートル離れた位置に半径30センチメートルの球体を治癒の『場』として形成するが、距離や半径が適切かどうかは検証していない
・外科的な負傷には対処できるが、病気などの内科的疾患に効果があるのかは検証していない
要するに上記の疑問点を実際の医療現場で検証してもらいたいというのがこちらからの依頼だ。
増加試作機3台と交換用の魔石を10個ほど渡し、スイッチやつまみの説明と魔石の交換方法を教えた。
なお、こちらから治験の協力費用を支払うと言ったんだけど、院長先生から拒否された。代わりに製品化した際の優先購入権をもらいたいそうだ。お安い御用ですよ。
最後にクラレンスさんが自分の腰痛が治ったと言ったら、院長先生の目が輝いた。あ、院長先生も腰痛持ちですか。
一番気になるのは病気に効くかどうかなんだよね。
RPGにおけるHP回復魔法のヒールは外科的外傷のみ対応できるよね。いや、そもそもゲームの世界に病気は無いか…。
私の予想では免疫力をアップすることによって治る病気だったら、この魔道具でも治るんじゃないかと思っている。風邪とかね。
でも内臓疾患なんかは従来通り、薬でしか対処できないんじゃないかな?
まぁ直接的に人体に働き掛けないからこそ、副作用なんかは無いはずだ。治験の結果を楽しみに待とう。
一か月後、治験の結果が届いた。
・骨折や裂傷など外科的外傷の場合は100%治癒可能
・ほとんどの外傷は、軽症の場合30秒、重症の場合でも3分で治癒(複雑骨折だけは5分かかったそうだ)
・魔石の持続時間は延べで約10時間(もっとも稼働時間が長かった魔道具が一か月後にようやくエネルギー切れになった)
・発動距離や発動半径はこのままで問題ない
・病気の治療には効果がない
・特に副作用は見受けられなかった
うーん、残念。病気はダメだったか。
まぁ、外科も内科も治癒できちゃうと、医師や薬剤師の仕事が無くなってしまうからね。
この結果を踏まえて多少の改修を行ったあと、すぐに量産体制に入ることにした。
うちの工房の現状って、照明の魔道具はコンスタントに出荷されているけど、防御結界装置は王国軍への納品(1万個)が終わったため今は作っていない。ドライヤーもある程度普及したので、生産台数はそんなに多くない。推進器はもともとの生産数が少ない。つまり製造能力に余力があるのだ。
日産20台は作れそうだと工房長のクラレンスさんが言っていたので、その方向で製造開始できるよう、材料手配などの事務仕事が増えた。またかよ。
あ、もちろんCEOであるお兄様への報連相(報告・連絡・相談)は欠かしていませんよ。社会人の常識です。