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転生した女性SEの異世界魔法ライフ  作者: 双月 仁介
社会人編(1年目)
151/303

151 実証実験①

 お兄様にお願いしてクラレンスさん紹介の治療院の幹部にアポイントメントを取ってもらった。

 ちなみにお兄様にはヒールの知識があるので、治癒の魔道具の試作品を見せても驚かなかった。驚きはしなかったけど(あき)れた顔で私を見た。なんで?


 会合の日までに増加試作機を3台ほど作ってもらって、それを持って治療院に向かう。

 なかなか大きな建物の治療院だった。お金もかかりそうなところだな。王国には国民健康保険制度が無いので、医療には基本的にお金がかかるんだよね。

 会議室のひとつに通された私たち(クラレンスさん、リヒャルトさん、シャルロッテさん、私)は、治療院の幹部たちとコの字型になったテーブルに向かい合わせになるように座った。

 治療院側はかなり年配の院長先生と中年の男性医師、それに若い女性医師の3人だった。


「今日はお時間をいただきまして誠にありがとうございます。魔道具工房の幹部の一人で、シュトレーゼン家のマリアと申します」

 私の挨拶に続いて職人3人の挨拶が続き、治療院側からも自己紹介があった。


「さっそくですが用件に入らせていただきます。こちらの魔道具の実証実験にご協力をお願いしたいのです。この魔道具は治癒魔法を発動します」

 私の言葉に中年の男性医師が答えた。

「人体に直接影響を及ぼす魔法は存在しないはずです。そういう詐欺行為にうちの治療院を巻き込まないでいただきたい」

 うちの職人たちが不穏な空気を出している。いやいや、そう思われるのは当然なんだから大丈夫だよ。

 …って、リヒャルトさんがいきなり小さなナイフを取り出して、自分の左手の指先に小さな傷をつけたよ。この人、初対面のときもそうだったけど割と過激だよね。


 血がにじみ出て、ポタっと一滴テーブル上に落ちた。治療院側の3人もびっくりしてるよ。

 シャルロッテさんが魔道具を起動して、半透明の治癒の『場』が出現した。リヒャルトさんがそこに左手をつっこみ、しばらくすると『場』が消滅した。

 ハンカチで血をぬぐったあとの指先を医師たちに見せるリヒャルトさん、誇らしげです。


 どんなトリックだ?と思っているのか、テーブル上に垂れた血とリヒャルトさんの指先を交互に見ている医師たち。

 にわかには信じられないのだろう。まぁ、当然だね。

 医師はインテリで、知識階級の最上位といっても良い。なまじ知識があるがゆえに既存の常識に(しば)られてしまうんだよね。


 最初に発言したのは若い女性医師だった。

「そ、それはどんな負傷でも治癒できるのでしょうか?」

「はい、死に至るような内臓の損傷であっても治癒できるはずです」

 アレンの治療を行ったときは魔道具じゃなかったので断言はできないけど、効果は同じはずだ。

 ちなみにこの世界、外科手術の技術が未熟なので内臓損傷は基本的に死にます。


「すみませんがその魔道具を持ってこちらに来ていただけませんか?」

 若い女性医師が私たちを連れていったのはある病室だった。

 なんでも仕事中の事故で腹部に大けがを負ってこの治療院に(かつ)ぎ込まれたものの、手の(ほどこ)しようが無かった患者らしい。

 おそらくお身内だろう、小さな子供の手を握った若い女性がうめいている男性に寄り添っていた。


 病室に入ってきた私たちに女性が(すが)り付いてきた。

「先生、夫をお助けください。どうか、どうか…」


 なんの処置も施されていないところを見ると、治療院側がすでに諦めていることが分かる。

 包帯は巻かれているものの、血がにじんでおり出血が止まっていないことが明らかだ。

 私は女性医師とその後ろに立つ院長先生に了解をもらい、シャルロッテさんに魔道具の発動を指示した。


 魔道具をかざしスイッチを入れるシャルロッテさん。発動時間はとりあえず1分にした。

 腹部に半透明の治癒の『場』が重なるように保持し続け、1分後に『場』が消滅した。

 うめき声をあげて苦しそうだった患者の男性は、息が(おだ)やかになっている。

 女性医師が包帯を切って患部をあらわにした。さらに布で患部の血をきれいに(ぬぐ)ってくれたのだが、それを見た全員(私たち以外)が驚愕の声をあげた。

 あまりにもひどくて手の(ほどこ)しようが無かった傷がほとんど消えている。


 念のため、もう1分ほど魔道具を発動しておこう。今度は傷が目で見えている分、さらに劇的だったようだね。見る見るうちに傷が消えていく過程はビデオの逆再生みたいだった。この世界にビデオは無いけど。

 容態を確認した中年の男性医師が太鼓判を押してくれた。

「もう大丈夫ですね。すぐにでも退院できそうなくらいに回復していますが、念のため明日までは入院して経過を観察したほうが良いでしょう」

「ありがとうございます。本当にありがとうございます」

 泣き崩れた奥さんの肩を抱く女性医師が私たちに言った。

「私からもお礼を言わせてください。この方を助けていただいてありがとうございました」


 中年の男性医師も会議室での発言を謝罪した。

「詐欺だなどと言って申し訳なかった。あなたがたは医療現場の救世主だ」

 院長先生も治験の許可を出してくれたし、結果オーライだね。


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