150 治癒の魔道具②
治癒魔道具の試作品ができたそうで、見せてもらった。
タブレットのような薄型で50センチメートル先に半径30センチメートルの治癒の『場』を形成する。
この距離と半径は魔法陣上に描いている固定パラメータなので、あとで調整しないといけないね。
あと、スイッチを切り忘れることも考えて、発動時間をつまみを回して設定できるようにI/Oポートも付けよう。
デザイン面では前世のタブレットっぽいのがなかなか良いね。医療従事者が一人一台、これを常に持ち歩くことを考えると薄型で軽量化されているのはポイント高い。
ただし、魔石をセットするところだけが出っ張っているのは仕方ないか。魔石を薄型にできないかな?
あと、私が魔法陣でヒールを発動するときは右手の先に治癒の『場』を形成するから問題ないけど、魔道具の場合はどこに『場』があるのか目で見えないだけに患部にあてづらいな。マジックガードのように『場』を半透明にできないかな?
試作品を作ったリヒャルトさんと改善点の打ち合わせを行い、魔法陣の改修を行った。
発動時間設定のためのI/Oポートを設けること。治癒の『場』が目で見えるように、『場』自体を半透明化すること。距離と半径のパラメータはとりあえずそのまま。
この仕様で作った魔法陣をリヒャルトさんに渡したのが打ち合わせの三日後。その翌日には試作2号機が完成していた。速っ。
「つまみで最短30秒から最長5分まで発動時間を設定できます。では30秒で起動します」
リヒャルトさんが魔道具のスイッチを入れると半透明な球体が魔道具の先の空間に現れた。
私はその球体の中に左手を突っ込んでみる。昨日左手の人差し指の先端に針を刺してしまって、まだ少し痛みが残っているんだよ。ちなみになぜ針を刺したのか?貴族令嬢の嗜みとして刺繍なんてものがあるんだけど、私は裁縫とか刺繍が苦手なんだよ。右手に持った針で左手を刺しちゃうんだよ。…って、不器用かよ。
30秒後に発動が終了したあと、左手を見ると指先の痛みはすっかり消えて無くなっていた。
動作は大丈夫みたいだね。
クラレンスさんやシャルロッテさんにも負傷個所が無いか聞いてみたところ、シャルロッテさんの右手に切り傷があったので治癒してみた。
「深い傷は痕が残るかもしれませんが、こういう軽い傷は痕が残ることもないですね。すっかりきれいに治りました」
「なあ、嬢ちゃん。そいつは腰痛にも効くのかな。最近どうも腰が悪くてな」
クラレンスさん、腰痛持ちですか。ぜひ効果があるか試してみたい。
クラレンスさんの了解を得てから、ソファの上にうつぶせで寝てもらう。そのあと、腰の上に治癒の『場』が形成されるように魔道具を発動した。とりあえず1分だ。
「どうですか?腰の痛みは」
「おう、なんか暖かくて気持ちが良い。寝てしまいそうだ」
1分後に立ち上がったクラレンスさんは腰の調子を確かめてから言った。
「おいおい、すごいぞ、これ。腰の痛みがすっかり消えやがった」
ほほう。それは良かった。腰痛にも効くってことだな。
「あとはどこか実証実験に協力してくれそうな治療院か医者の先生を見つけないといけないですね」
そう言ったリヒャルトさんにクラレンスさんが答えた。
「だったら俺が腰痛治療に通っている治療院があるが、そこに聞いてみるか?」
お、それは良いですね。聞いてみるとそこそこ大きな治療院で、入院患者も多いみたい。よし、そこに決めた。