146 謁見
襲撃者は本当に思いもよらない人物だった。尋問に対しては、正直にその目的を答えたらしい。
なんと10年前に私たちの馬車を襲った盗賊、いや帝国特務小隊の小隊長だったよ。死んだ部下たちの仇を討つつもりだったが失敗して無念だ、と言っていたらしい。
いや、執念深いにもほどがあるよ。確かにシュトレーゼン領に来るのは10年ぶりだけどさ。
てか、よく私があのときの娘だって分かったな。10年間ずっと恋焦がれていたのか?もはや恋だな。…って、ありがた迷惑だよ、まじで。
ちなみに今回の帝国軍との戦いにおいて、私たちは存在していないものとして扱われることになった。
したがって、この襲撃事件もたまたま自領を訪れていた男爵令嬢が逆恨みで暴漢に襲われたが、すんでのところで侯爵家の御曹司に救われたという形に改変された。
さらにアレンの負傷やその治癒を魔法で行ったことについても、いったんは秘匿されることになった。ただし、将来的には公表されることになるかもしれない。もちろん私が表に出ない形で。
アレンとの関係はなんかギクシャクしている。恥ずかしすぎて私がまともにアレンの顔を見れないのだ。命の恩人に対してしっかりと向き合って、お礼を言わなくてはいけないって分かってるんだけど。
アレンは別に気にしていないようで、いつも通りの対応だ。ルーシーちゃんは微笑むだけで、私を見る目は変わっていない(ように思える)。私だけが過剰に意識してるだけなんだよ。だって仕方ないじゃない。アレンの胸に顔を埋めて大泣きしたんだよ。まともに顔を見れないっての。
ブレーン会戦から三日後、もはや王国への脅威は去ったと判断して、私たち3人は王都へ戻ることになった。
戦後処理については辺境伯様とうちの代官セバスティアンさんに丸投げだ。面倒くさすぎる。
往路は二日間休みなく三輪自動車を走らせ続けたんだけど、復路はゆっくり帰ろう。
途中の宿屋にも泊まりたいしね。
それでも馬車で一週間の行程が半分の四日間で済んだのはとても楽だった。この三輪自動車って後部座席が無いタイプだから、荷台には大量のクッションを敷き詰めて、運転者以外は寝っ転がっている状態だ。これが案外良くて、もしかしたら座席に座っているよりも楽かもしれない。キャンピングカーみたいな感じだね。自動車製造業者さんに提案してみようかな。
王都に帰り着いた私たちはいったんうちの屋敷に立ち寄ったあと、すぐにお父様に連れられて王宮へ向かうことになった。休憩も無しですか…。
すぐに陛下との会談がセッティングされ、個室での謁見となった。
部屋の中には、陛下、お父様、アレン、ルーシーちゃん、私の5人だけだ。信用されてるなぁ。
ある程度の情報は通信の魔道具で辺境伯様から届いていたらしく、私の報告にあまり驚くことなく聞き入っている。いや、陛下は驚いてないけど、お父様はめちゃ驚いていたけどね。
アレンの腹部に矢が貫通した話になったときは陛下も驚愕して、容態は大丈夫なのかとアレンを気遣っていた。
私の報告が終了すると陛下が発言された。
「マリア嬢、アレン君、ルーシーメイ嬢、今回の一件、我が国を亡国の危機から救ってくれたこと、心より感謝する。ありがとう」
陛下が私たちに頭を下げた。ちょっとやめてよ、お父様がめちゃくちゃ焦っているよ。
「グレンテインの国民として当然のことをしたまでです」
「臣下として王国に貢献できたことこそが私の喜びです」
「貴族の務めを果たしたまででございます」
順に、私、アレン、ルーシーちゃんの言葉だ。なんか私だけ貴族っぽくないような気が…。
「ありがとう。君たちには救国の英雄として勲章を授与すべきなのだが、それができぬ儂を許してくれ」
いえいえ、戦略級魔法は最重要機密ですから大丈夫ですよ。てか、目立つのは困る。