131 ボートレース大会当日③
午後1時。観客席と湖の間に小さな台と拡声の魔道具を設置する。
台の上に運営事務局長が立ち、開会の宣言を行った。
「お集まりの皆様、これより第1回ボートレース大会を開催致します。この大会の開催に私財を投げうってご援助くださいましたシュトレーゼン家の方々への感謝をこの場を借りて申し上げます。ありがとうございました」
このあと、スポンサーとして資金援助している商店の名前などを読み上げて開会式は終了した。
さぁ、このあとは競技開始だ。放送室の実況担当者の腕の見せ所だね。DJみたいなノリの良いお兄さんを私自身で面接して採用したんだよ。ぜひ会場を盛り上げてくれたまえ。
二艇ずつ走るので18回の競技が行われるんだけど、勝ち抜き戦(トーナメント戦)ではなくタイムアタックなのでタイム計測係は責任重大だ。ミスなく頼むよ。
各チームのエントリー番号は申し込み順に1番から36番だけど、出場者にくじを引いてもらって走る順番を決めている。
「さあ、いよいよ始まりました、ボートレース大会。第1試合はエントリー番号2番と17番のチームです。両者スタートラインに並んでください」
スタートラインには木で作ったゲートがあり、スタート3秒前にそのゲートを上げることになっている。水の上に静止するのは大変だからね。
スタートの合図は大きな銅鑼みたいなやつを叩いて行うんだけど、大きなバチで叩く担当者は大変だと思う、うるさくて…(耳栓必須)。ジャーンという音とともに走り出す二艇。
タイム計測係は2名でそれぞれストップウォッチの魔道具を握っている。
1キロメートル先の折り返し地点にも観客がたくさんいて、豪快なターンを見て歓声を上げている。あっちにも観客席を作ったほうが良いかな?
約3分後に戻ってきた二艇だけど、やや2番の艇のほうがリードしているね。でもかなりのデッドヒートだ。観客の応援にも力が入る。
スタート兼ゴールラインを通過した二艇のタイムが発表される。これはタイム計測係の役割だ。
「2番艇のタイムは3分12秒です」
「17番艇のタイムは3分15秒です」
往復2キロメートルのタイムとしてはなかなか良いんじゃないかな?
暫定順位ボードに結果が貼りだされて、現在の順位とタイムが分かるようになっている。
次々と試合が進んでいき、ロザリー・ブレンダチームの順番になった。操縦者はブレンダだ。緊張しているのが分かる。
「ブレンダ、頑張ってー!」
歓声で聞こえないかもしれないけど、大声で応援する。ブレンダがこちらを見てにこっとした(気がした)。
銅鑼が鳴ってスタートする二艇。船外機の性能が同じなのでそうそう差はつかないはずなんだけど、戻ってきたときはブレンダのほうがかなりリードしていた。
船自体のコーナリング性能と操縦者の技量がターンのさいに発揮されるから、そこでだいたい差が付くね。直線の速度性能もブレンダのほうが上かな?これは操縦者の体重の違いだろう。軽いほうが有利だからね。
「20番艇のタイムは2分58秒です」
「11番艇のタイムは3分16秒です」
大歓声が沸き起こった。初の2分台だ。ブレンダが観客に手を振りながらピットへ戻っていく。
第2回の大会では体重の軽い女性操縦者が多くなりそうだ。いや性別によってクラスを分けて別々に競うようにすべきかな?
第17試合まで終了した段階で暫定1位は3番艇、2位は12番艇、3位は20番艇つまりロザリー・ブレンダチームだ。
1位と2位の操縦者は10歳ちょいくらいの少年だったよ。やはり体重の軽さは有利だな。性別によるクラス分けではなく、操縦者の体重によるクラス分けにすべきか。
最後の組み合わせである第18試合が始まった。この結果で最終順位が確定する。
スタートしてから徐々に遠くなるボートの姿を目で追っていると、31番艇の舳先が上がっているように思えた。ウイリーして転覆?最悪の事態が脳裏をよぎる。
しかし、転覆することなく二艇は戻ってきている。そして圧倒的に31番艇が速い。しかも舳先が水面上に出ている。
舳先の下に2本の支柱みたいなものがあるけど、その下に何があるのかは水面下なので見えない。でも私には推測できた。あれは水中翼だ。
圧倒的なスピードでゴールラインを通過する31番艇。もう一艇はかなり遅れて通過した。
「31番艇のタイムは2分34秒です」
「19番艇のタイムは3分5秒です」
19番艇も決して悪いタイムではない。いや良いほうだろう。31番艇が速すぎるんだよ。
これによって優勝は31番艇、2位は3番艇、3位は12番艇となった。ロザリー・ブレンダチームは惜しくも4位という結果になった。ほんと惜しかったね。
それにしても優勝したチームの平均速度はどうなってるの?計算してみると時速47キロメートルだった。ほとんどのチームが時速40キロメートル前後だったので、まさに圧倒的だな。
やはり水中翼による水の抵抗軽減効果は高いみたいだね。
31番艇の操縦者は40歳くらいのおじさんだったので、もしも少年や女性を操縦者にすればさらにタイムは縮まったはずだ。このおじさんが設計者なのかは分からないけど、水中翼を考え出した人は天才と言っても過言ではないね。画期的な発明です。