013 博物館①
今日はナタリア先生と二人でお出かけだ。
前世でいうところの社会科見学ってやつ?
行先は私の希望で博物館。魔導書を見せてもらうつもりだけど、外観はともかく中身まで見せてもらえるだろうか?少し心配だ。
ちなみにお兄様は剣の稽古があるため、同行していない。残念。
「先輩、こんにちは」
「おう、ナタリアか。最近よく来るな。さては俺に惚れたか?」
「冗談はともかく、こちらが私の教え子であるマリア・フォン・シュトレーゼン様です」
ナタリア先生から博物館の職員と思われる男性に紹介された。
先生と同じくらいの年齢だが、ワイルド系のイケメンだ。この世界、イケメン率高くない?
「マリア・フォン・シュトレーゼンと申します。どうぞよろしくお願いします」
「おう、俺はこの博物館の学芸員をやってるグレゴールってもんだ。一応伯爵家の出だが三男でな。家を継げないんで学芸員をやってるってわけだ。よろしくな」
ふむ。伯爵家の方でしたか。それにしても貴族らしからぬざっくばらんさだな。
「グレゴール様はナタリア先生とはどういうご関係なのですか?」
「こいつは部活の後輩でな。身分差を気にすることなく小言を言われまくったもんだ」
「いやいや先輩、なに言ってるんっすか。私が言わないと誰も指摘できなかっただけでしょ。それよりも生来のだらしなさは少しは改善されたんですか?」
ほほう。何となくだが、グレゴール氏はナタリア先生に好意を持ってるような雰囲気があるな。
先生も別に嫌がってはいないと…。こいつは面白くなってきた。恋バナ大好き。
「そんなことより今日はどうした?博物館見学か?」
「えぇ、マリア様がどうしても魔導書を見たいとおっしゃって」
「ああ、この前は魔法陣を転写したもんな。そんなに魔法陣に興味があるのか。なかなか見どころのある子だな」
「そうなんです。それで魔導書の閲覧は可能でしょうか?」
「あー、開館時間中は展示してるから難しいが、閉館した後の30分くらいなら見ても良いぞ。一応俺の立ち合いのもとでってことになるが」
やたっ!30分あれば十分だ。魔導書の中から空間魔法を探して、その魔法陣の転写サービスを申し込むだけだし。
一応お父様からは10枚程度の転写申し込みは許可されている。ほかにも面白い魔法が見つかれば転写の申し込みをしよう。
「では閉館時間まで館内のほかの展示物をゆっくり見させてもらいますね」
ナタリア先生と私は館内を見て回ったが、広すぎて疲れちゃった。5歳児の体力…。
休憩所で休憩中に閉館5分前のアナウンスが始まった。
このまま館内にいて良いのかな?警備員に追い出されない?
と思ってたらグレゴール氏がやってきた。
「おぅ待たせたな。こっちの閲覧室へ来てくれ」
そう言って案内された先は6畳ほどのスペースに机が一つと椅子が4脚あるだけの殺風景な小部屋だった。
「すぐに魔導書を持ってくるからな」
グレゴール氏はいったん消えてから、すぐに一冊の分厚い本を手に戻ってきた。
「えっと、念のためこの白手袋をしてもらえるかな?規則なんでね」
私の手にはかなり大きめの白い手袋を渡されたが、付けてみると指先が余りまくっている。
「くっ。悪い。子供用の手袋なんて置いてなくてな」
めっちゃ笑いをこらえているようで、むかつく。てか、私自身も笑い出しそうだ。でも、ナタリア先生は微笑みながら両手を組んで神様に祈るような感じになってる。ちょっと怖い。
まぁ良い。そんなことは魔導書の前では些細なことだ。
指先がぶらぶら垂れ下がった状態で魔導書を開くと、中の紙質は前世のインクジェットプリンタ用写真用紙みたいなツルツルした光沢のある紙だ。直接触っていないのでなんともいえないが、プラスチック系ではなさそうだ。
さすがは古代の超技術。今の時代でこの紙は製造できるのかな?
見開きページの左側に魔法陣が、右側にその説明文が古代語で記述されている。
読める、読めるぞ。【全言語理解】ありがとう。
次々ページをめくっていって、説明文のタイトルのみを読んでいく。
火・水・風・土・光・闇等に分類される様々な魔法が載っている。やばそうな攻撃魔法も満載です。
鑑定魔法を見つけたがおなじみの魔法陣が描かれていた。これ、もう頭に焼き付いてるよ。
かなり後ろのほうのページにようやく空間魔法の記述を見つけた。
説明文にはこう書かれていた。
・魔法名:アイテムボックス
・必要魔力量:起動に必要な魔力量は5、発動維持に要する魔力量は200
・機能:魔法を起動後、メニューから入出力のいずれかを選択する。
入力の場合、対象物を指定する。
これにより指定した対象物は異次元空間内に作られた倉庫に格納される。
出力を選ぶと倉庫内にある物品の一覧表が表示されるので、その中から一つを選択するとこの次元へ召喚される。
最初にこの魔法を実行した際にランダムなユニークID(16桁の数字)が付与され、倉庫と紐づけられる。
2回目以降は同じ人物が実行した場合、そのユニークIDを自動的に使用するので、他人の異次元空間をのぞくことはできない。
逆に自分の空間も他人からのぞかれることはないので、セキュリティは確保されている。
・特記事項:命あるものは格納できないが植物は格納できる。
倉庫の大きさは自動的に拡張されるので、実質無限の大きさがあると考えてよい。
この異次元空間に時間の流れは存在しないので、格納したものにも時間は経過しない。
すごい性能じゃん。まさに転生特典3点セットの一つにふさわしい。
容量無限・時間経過無しってやつだ。
てか、この世界、誰でもこの魔法を使えるはずなのに誰も使ってないんだよね。もったいねぇ!
ちなみに詠唱魔法による空間魔法が存在しないことはナタリア先生に確認済みだ。
おそらく発動に必要な魔力量が大きいからだと推測している。詠唱魔法は自然界の魔力を吸収して使うことができないため、全て自前の魔力で発動しなきゃならないからね。
ただ問題はバッファメモリの小さい私が実行できるかだな。起動はできると思うけど、出し入れ完了までの時間を維持できるかは別だ。
管理者も言ってたしな。魔法の規模によってある程度のバッファリングが必要になるって。
まぁ、成長すれば自然に魔力量も増えるし、あせることはないけど。