122 船外機①
工房の休日は学院の休日と合わせているので、うちの職人3人(クラレンスさん、リヒャルトさん、シャルロッテさん)が湖に向かうのに私も同行した。もちろん平民風に変装済み。
リヒャルトさんの運転する三輪自動車で移動すること30分、王都の近くにあってその生活用水や農業用水の水源でもある湖に到着した。
なお、馬車移動だと2、3時間はかかる距離だね。
その湖には魚を捕る漁師さんや貸しボート屋を営む店もあるし、休日には屋台も出店されるみたい。かなり大きな湖で観光資源でもある。
今日もおいしそうな屋台が立ち並ぶ通りを船外機を持つ二人…クラレンスさんとリヒャルトさんと、その後ろを歩く私たち(シャルロッテさんと私)が通り過ぎていく。
屋台店主からの物珍しげな視線を感じながら貸しボート屋まで歩いて行った。
「こんにちはー。ボートを二艘貸してくださーい」
私が店の中に声をかけると、眠そうな店番の人が出てきた。少し太り気味の年配の方なので、おそらく店主さんかな?
「はいはい、お嬢ちゃん、よく来たね。ボートを二艘だって?今日は休日だけどまだ時間が早いから、二艘貸すのは大丈夫だよ」
王都からの観光客が多いので、込み合ってくるのはお昼頃の時間らしい。ちなみに今は朝の9時くらいだ。
「一艘は普通に手漕ぎで扱いますが、もう一艘は魔道具を取り付けさせてもらいたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ん?魔道具?なんだい?後ろの男たちが抱えているやつかい?」
「はい、船外機と言って、船に取り付ける推進装置です。船には傷を付けませんのでどうかお願いします」
なんか面倒くさい客が来やがったなぁ…という内心が伺えるような表情の店主さん。
「とりあえず取り付けてみてくれや。まずそうなら外してもらうかもしれんが」
条件付き承諾がもらえたので、さっそく船外機を船尾に固定するクラレンスさんとリヒャルトさん。
「ふむ、ちょっと動かしてみてくれないか」
店主さんのリクエストに応えてクラレンスさんとリヒャルトの乗り込んだボートは船外機を起動する。
フォーンという風切り音をともなった強風により、ボートが湖の上を進み始めた。あっという間にかなりの高速に達したボートは誰もいない水面を右へ左へ縦横無尽に走っていく。
すっげぇ楽しそう!私も乗りたい。
しばらくして桟橋へ戻ってきたボートの船尾部分を確認したあと、店主さんは取り付け可否の結論を出した。
「ボートのほうに傷みはないみたいだから、その魔道具を取り付けても大丈夫だな。ただし、条件がある」
「なんでしょう?」
「俺もそれに乗せてくれ。できれば操作したい。どうだ?」
うん、分かるよ。めっちゃ楽しそうなんだもん。安全のためクラレンスさんが同乗して、店主さんの操作で湖に走り出すボート。シャルロッテさんと私は自分の順番が来るのを指をくわえて眺めるのみだ。はよ戻ってこい。
しばらくして戻ってきた店主さんは興奮しながら私たちに質問した。
「これ、魔道具ってことは魔道具店で買えるんだよな?どこに行けば手に入る?」
すごい欲しがってますな。でも残念、売ってないよ。
私が代表して答えてあげた。
「この3人は魔道具の職人で、今日は試作品の検証作業なんです。売り出すかどうかは未定なんですよ」
店主さんはあからさまに残念がっている。そんなに楽しかったの?まぁ手漕ぎボートや帆船では出せないスピードだからね。
そのあと交代で乗りながらボート遊びを楽しんだ。いや、検証作業を行った。
もう一艘の手漕ぎボートのほうは緊急時のバックアップ、というか救助用だったので結局使わなかった。もちろん二艘分の料金に加えて協力費用として色を付けて料金を支払ったよ。
帰るときには店主さんから船外機の販売について懇願されたよ。
これって漁師さん向けだけじゃなく、レジャー用としても売れそうだってことだね。