120 三輪自動車②
持ち主だけが動かせるように魔道具起動用の鍵を付けて、駐車中に盗まれないようにしなきゃね。
あと、夜中に走ることはめったにないと思うけど、ヘッドライトを照明の魔道具で作ろう。
ウインカーやブレーキランプはいらないかな。
あ、バックできないけどどうしよう。もう一つ推進器を前方に向けて設置すればバックもできるようになるけど、運転操作が複雑になるかな?
バックはとりあえず保留だな。四輪自動車を作るときには検討しよう。
シートベルトは安全面を考慮すると必要だろうね。エアーバッグはさすがに難しいけど。
製造業者さんと打ち合わせをしながら細かい改善を施していく。
そうして学院が夏休みに入るころ、ようやく完成品が我が家に納品された。かなりのスピード開発だ。
製品名はまさに『三輪自動車1号機』になった。なんかダサいけど私が決めたんじゃないよ。
製造原価は車台部分が2000万エント、推進器の魔道具部分が200万エント(本当は3万くらいだけど、製造業者への出荷単価が200万ね)なので、合計2200万エントだ。。
馬車の場合だと(大きさや豪華さにもよるけど)販売単価がだいたい100万から1000万の間らしい。
それを考えるとかなり高価なものになるね。
製造業者側では販売単価として1台あたり3000万エントにして、受注生産制にするらしい。まぁ、そもそも大量生産は難しいからね。
3台をうちが購入して、うち1台を陛下に献上する。合計で9000万エントだ。我が家の感覚では9000エントくらいだけどね。って、金銭感覚狂い過ぎ。
1台は部材運搬専用なので後部座席はそもそも取り付けない。あと1台は人を運ぶための車にするけど、4人分の後部座席は任意に取り外しできるようにしておく。
燃費計測では魔石1個でおよそ100キロメートルの走行距離だった。時速50キロメートルで走って2時間ほどだ。
交換用の魔石を鍵付きのグローブボックスに入れておいて、たとえ走行中にエンストしても運転者が自ら魔石交換できるようにしている。
なかなか素晴らしいものが出来上がったんじゃないかな。自画自賛(私が作ったんじゃないけど)。
新製品発表会が製造業者主催で開かれたので、関係者として招かれたお兄様と私も来賓席に座っている。
招かれているのは貴族の使用人(執事や御者など)、裕福な商家の人、つまり購入能力のある人たちばかりで一般庶民はいない。それでも会場には数百人が詰めかけている。
「このたびは新型馬車の発表会にお越しいただきまして誠にありがとうございます。新型馬車と申しましたが実は馬車ではありません。馬が必要ないからであります。私どもはこれを自動車と呼んでいます。正確には三輪自動車という名称です」
会場がどよめいた。馬が必要ない?どういうことだ?…って顔をしている。
「実際に動いているところを見ていただきましょう」
そうしてデモンストレーション走行を行うテストドライバー。会場の興奮は最高潮だ。ここはコンサート会場ですか?
そのあとは細かい機能の説明や燃費など性能面の説明、販売価格の説明へと続いていき、発表会終了後は受注生産受付会場に変わった。
馬車を使った運送業者(中小業者ではなく大手の業者)や大商店の店主や番頭と思しき人たちが受付窓口に列を作った。1台3000万だよ?かなりの高級車だけど即決しているね。
貴族側は判断を下せる人間がいないのか、いったん話を持ち帰って当主に判断を仰ぐようで、急ぎ足で帰っていった。
製造業者さんや私の立てた予想では、今年中に30台程度売れる見込みなんだけど、この様子ではもっと多くなるかもしれないね。
ちなみに、30台だと売上金額は9億。うちは推進器の納品で6000万くらい儲かるかな。