119 三輪自動車①
お父様に頼んでうちの馬車を製造した業者を呼び出してもらった。
馬の無い三輪自動車という代物に最初は目を白黒させてたけど、私が推進器の話をして、さらに大まかな構造を絵で説明していると徐々に目が輝いてきた。
「お嬢様、これは画期的な製品になること間違いありません。私どもにお声をかけていただき感謝申し上げます。すぐに戻って設計図を書いてまいりますので、ぜひこの事業に参画させていただければありがたく存じます」
おお、なんだか高評価だね。だんだん事態が拡大していく気もするけど、もう成り行きにまかせよう。なんか疲れた。
リヒャルトさんが推進器の魔道具の試作品を作ってきたので、それを馬車製造業者に渡して三輪自動車に組み込んでもらった。
スロットルは手元のレバー操作で行い、足元にあるペダルでブレーキをかけるようになっている。坂道に止めたときに動き出さないようにサイドブレーキも組み込んでもらった。あと、手元に呼び鈴みたいな音の出るベルが付けられている。クラクションだね。
そうして約一か月後、試作品が完成したとの連絡が来た。すぐに持参するとのことなので屋敷にいるみんなで待っていると、布で隠された大きなものが載せられた荷馬車が到着した。
布が取り払われると三輪自動車が姿を現した。荷馬車から板を地面に渡し、その三輪自動車を地面に降ろしていく。
業者のほうで走行テストは行っているので、本当は荷馬車を使わずにここまで自走してくることもできたらしい。でもまだ秘密にしないといけないのでこういう運搬方法になったわけだね。
乗員は運転者が1人、荷台には取り外し式の座席が4つで4人が座れる。座席を取り外せば荷台として荷物を載せられるようになっている。なかなかの出来栄えだ。
「では記念すべき最初の運転者と乗員は、運転者にお兄様、乗員はお父様とお母様、ペリーヌお義姉さま、そして私でいきましょう」
家族5人で屋敷の庭をドライブだ。
全員が乗り込んでお兄様がスロットルを開けると、後部の魔道具からフォーンという音とともに強風が発生し、それにともなって自動車が動き出した。
おぉ感動だ。馬車よりもずっと速く走ってるんだけど、サスペンションも組み込んだのでそこまで酷い振動もない。馬車の車輪にはゴムみたいな素材が使われているんだけど、この自動車の車輪は特注品としてより振動を軽減するようにゴム的素材の厚みを増したものにしてもらったのだ。お金がかかってるけど良いんだ。なにしろうちは金持ちだから。
「シュミット、私にも運転させてもらえないか?運転をかわってほしいのだが…」
お父様も運転したいみたい。うん、私も運転したいよ。
「いえ、危ないので僕が運転しますよ。後ろでゆっくり景色でも堪能してください」
あー、これお兄様も運転が楽しくて仕方ない感じだ。絶対に交代したくないんだね。
屋敷の建物の周囲を一回りしてきた自動車はブレーキをかけてゆっくりと止まった。
「これは良いものですね。運転操作も難しくなくて、速度もかなり出ます」
お兄様の言葉に全員が同意の表情だ。
おそらく時速50キロメートルは出てたね。速度計が付いてないので前世の記憶からの推測だけど。
「じゃあ、次は私が運転するかな。後ろに乗りたいものは乗っても構わないよ」
お父様の呼びかけに、クラレンスさん、リヒャルトさん、シャルロッテさんが後部座席に座った。何かあったときのために一応私も乗っておこうかな。
「それじゃ、出すよ」
お父様がうきうきしているのが伝わってくる。こういうのが好きだったのか。知らなかったよ。
何の問題もなく安全運転でスタート地点に戻ってきたけど、その時には運転希望者が行列を作っていた。
みんな運転したいんだね。
なんか遊園地のアトラクションみたいだよ。
この自動車を製造した業者さんが微笑ましそうに見ているよ。なんか恥ずかしい。