118 自動車と高速艇
困ったな。リヒャルトさんなら本当に短期間で開発してしまいそうだ。
よし、さらなる燃料を投下するか…。
「この魔道具を推進力にした乗り物って、実は飛行機械だけじゃなく色々と考えられるんですよね。例えば馬無しの馬車とか帆がない船とか」
「おいおい、嬢ちゃん。馬がいないのに馬車って矛盾してるだろうがよ。馬がいないのに自動で動く車になるわけだから、そうだな…自動車って名前はどうだ?」
クラレンスさん、まさか転生者じゃないよね?自動車って。
「でも面白いな、それ。中古の馬車にその魔道具を取り付けて試してみるか。あ、でも左右に曲がるにはどうしたら良いんだ?」
意外にもクラレンスさんが食いついてきたよ。
さらにそこにシャルロッテさんも乗っかってきた。
「後ろの車輪はそのままで、前の車輪を斜めに傾ける機構を作れば良いんじゃないかしら?御者の操作で動くようにするの」
「ほう、なるほどな。でも機構が複雑にならないか?」
仕方ない、私もアイディアを出すか。
「だったら前の車輪を一つだけにして、その車輪を一本の横棒で左右に向けられるようにしたらどうでしょう」
簡単な絵を描きながら自転車の前輪部分の構造を説明する。つまり三輪車だね。東南アジアで見かけるトゥクトゥクってやつに似ている。
「嬢ちゃん、これならすぐに作れそうだな。そうだ!車台の幅を短くすることで狭い所を走れるようにして、さらに後ろに荷台をつければ部材を運搬するのに使えるんじゃねぇか?」
荷馬車で運ばれてきた魔道具の部材を工房に運び入れるのは、現状では人力で割と重労働なんだよね。トゥクトゥクがあれば部材運びがめっちゃ楽になるな。
飛行機械に夢中だったリヒャルトさんもついに参戦してきた。
「お嬢様、推進器となる魔道具のほうはすぐに形にしますので、車台のほうを馬車製造の業者に依頼していただけないでしょうか?なお、自動車を止める際に用いる制動機構も必要になるでしょうから、そのあたりも業者と相談のほうをお願いします」
あ、ブレーキだね。忘れるところだった。あれ?私の仕事が増えてない?
「船のほうが簡単そうですわね。推進器さえ後ろに取り付ければ良いだけなので。面舵や取舵については従来通り舵を操作すれば良いんですもの」
「おう、確かにな。推進器1個作れば帆の無い高速艇とか簡単にできそうだ。こっちは制動機構も必要ないしな」
シャルロッテさんとクラレンスさんの船に関する議論も白熱している。
そこにリヒャルトさんも入っていく。
「小型の手漕ぎボートに推進器と舵を取り付けて実験してみたいですね。楽しそうだ」
結局、3人全員、魔道具馬鹿ってことだな。そこに私は入っていない。いや、入ってないよね?