111 王宮からの召喚状
夏休みが終わり、武術大会や魔法研究発表会が近づいてきたころ、王宮からの召喚状がお兄様に届いた。
お父様ではなくお兄様あてってことは、おそらく魔道具がらみだろう。なにか怒られるようなことをしたっけ?魔道具協会から陳情があったのかもしれないな。
王宮から戻ったお兄様は夕食の席で話し始めた。なお、今日もペリーヌが同席しているのは、すでにここに住んでいるから。って同棲?いや、別々の部屋です。もうそのほうが仕事の効率が上がるからって話でそういうことになったのだ。新学期からはペリーヌお義姉さまと私は同じ馬車で通学しているよ。姉妹仲は極めて良好です。もっとも私は小姑になるので、ペリーヌからすると煙たい存在かもしれないけどね。
「召喚の理由は携帯型防御結界装置の軍への納入の話でした。従来品と比べて格段に高性能であることが比較テストで判明したそうです」
ああ、陛下に献上したものをテストしたんだな。
従来品のレベルが分からないけど、私が設計し、クラレンス氏が製造した魔道具が従来品に負けるわけないね。
「具体的にはどういう納入条件になったのかな?」
お父様からの質問に答えるお兄様。
「現在1個分隊に1個を配備しているそうですが、それをすべてうちのものに置き換えること。さらにその同数を追加で納品すること。従来品の単価が150万エントなので、うちから納める魔道具の単価は200万エントでお願いしたい…とのことです」
「我が国の常備軍は1個軍つまり4個師団だ。1個師団がおよそ1万名だから1個軍は4万名だな。1個分隊10名に2個を配備するということは…8千個ということか…ええっと16億エントかな?」
暗算で計算するお父様にお兄様が間違いを指摘した。
「いえ、160億エントですね。なお、納入数量は2年間で1万個の契約になりましたので、正確には200億です。その場合の売上原価がだいたい3億なので、粗利は197億ということになります」
あまりにも大きすぎる額の話になってお母様とペリーヌは目が点状態だよ。私もだけど。
「経費を差し引いたあとの純利益はどうなる?」
「現在の人員体制を維持した場合の経費が年間1億というところなので、2年間の純利益はおよそ195億ほどですね」
「うーむ、ぼったくりだな」
「そうですね。本来なら1個あたり10万から20万エントで納入できるものですから」
まじで暴利だよ。悪徳商人だよ。正義の主人公に成敗される側だよ。
「そのあたりの話はしたのかね?」
「ええ、特別に陛下と二人きりの場を設けていただきましたので、そこで陛下だけには真実をお話ししております」
「ふむ、だったら問題ないか。私も王宮へ行ったときにでも陛下と話しておこう」
「なお、純利益のうち180億エントについては基金を設置してそこで管理するつもりです。単なる男爵家が持つには大きすぎる額なので」
「ああ、それは良いな。この国が経済危機に陥ったときや王宮の財政が危機的状況になったときなどに、その基金から捻出できるようにしておくのは正しい判断だと思うよ」
すごいな、お兄様。お父様もだけど。私には考えつかないよ。
こうして照明の魔道具の量産に加えて、防御結界の魔道具も量産が必要になった。
魔法陣を使った魔道具の構造は魔法陣以外ほぼ同じなので量産体制は組みやすい。防御結界のほうは光量調整つまみが無い分、より簡単な構造だしね。
あの街中で騒ぎを起こしたリヒャルトさんがクラレンス氏の弟子として工房に入ってくれたので、製造に関してはなんとかなるかな。
でも事務仕事は2倍になるね。決裁書類も2倍だ。
事務スタッフの増員は必要ですよ、お兄様。言っとくけど私もペリーヌもまだ学生だからね。忘れられているような気がする今日この頃。