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110 アレン・フォン・リヴァストの回想⑧

 4年生に進級してからマリアが忙しそうだ。

 高等学院で授業を受けているときや友人たちとおしゃべりしているときは普通にしているが、屋敷への訪問を断られることが多くなった。忙しいからというのがその理由だ。

 なにか嫌われるようなことをしてしまったのだろうか?でも学院ではいつも通り接してくれるから、嫌われているわけじゃないだろう。いや、そう信じたい。


 ルーシーやブレンダに聞いてみても僕と同様だったので、マリアの友人全員が気にしているようだ。

 いや一人だけ頻繁にシュトレーゼン邸を訪問している者がいるな。ペリーヌだ。でもペリーヌはマリアではなく、シュミット様のところを訪れているらしい。

 夏休みに入る一週間前、意を決して直接聞いてみることにした。

「マリアさん、今年の夏休みは何か予定が入ってる?」

 去年のようにうちの領地に誘ってみようと思う。


「はい、おそらくどこにも行けそうにありませんね。ふぅ」

 憂鬱(ゆううつ)そうな顔で答えるマリア。いったいどうしたんだろう?


「理由を教えてもらうことはできるだろうか?もしも僕で手助けできることがあるのなら、何でも言ってくれ」

 それを聞いたマリアの口元が三日月(みかづき)のように吊り上がった。あれ?なんか嫌な予感。


「ちょっと家の仕事が忙しくて…。本当にお手伝いいただけるのなら、ぜひ遊びにきてくださいませ」

 『遊び』と言ったときのニュアンスが、なんかこれは『遊び』じゃないって言ってる気もしたけど、気のせいだろう。


「私も行きたいですわ。お手伝いいたしますわよ」

「あ、私も行くよ。手伝えるかどうか分かんないけど」

 ルーシーとブレンダも便乗した。


 夏休みの初日、シュトレーゼン邸を訪れた僕は応接室に通された。

 そこにはシュミット様、ペリーヌ、ルーシー、ブレンダそしてマリアが勢ぞろいしていた。

「全員揃ったね。では仕事の説明を始めるよ」

 いきなりシュミット様が語り始めた。え?仕事?


 まずマリアが魔法陣を使った新しい魔道具を開発したことについての説明を聞いた。

 すごいな、さすがは僕のマリアだ。

 画期的な発明と言っても過言ではないね。


 次に照明魔道具を売り出そうとしていることを聞いたが、一般的な工房とは異なり大量生産体制を採っているため、事務的な業務量が増えて大変らしい。

 なるほど。僕たちが手伝うのはそこか。

 学生でもできる範囲の仕事なら大丈夫かな?すでにペリーヌはシュミット様を手伝って働いているみたいだし。


 最初は簡単な仕事だったんだけど、徐々に難しい仕事までまかされるようになったのは認められたということかな。喜ばしいことだと思っておこう。

 ブレンダは実家の手伝いが優先なのであまり来ていないが、僕とルーシーは時間の許す限り手伝っている。マリアのためだからね。


 もう夏休みも残りわずかというところでマリアに我慢の限界がやってきた。

「あああああ、もう嫌だー。このままじゃせっかくの夏休みが仕事でつぶされちゃう。どこか遊びに行きたいー」

 僕は(おそらくルーシーも)マリアと一緒に働けるだけで幸せなんだけど、全然休みをもらえないマリアの気持ちも分かる。

 シュミット様に僕からも頼んであげたことで休みが決まった。

 さらにルーシーがマリアを街歩きに誘ったことで、それに僕も便乗することができたのは良かったな。


 西通りの商店街をそぞろ歩きしながら、目についた店に入ってあれこれおしゃべりしているマリアとルーシー。僕は護衛として常に周囲の警戒だが、これはこれで楽しい。

 ある店から通りに出たときのこと、大声で何事かを叫ぶ男がいた。

「お前ら、動くな。誰も動くんじゃねぇぞ。動いたらこの魔道具を起動するからな。いいか、この魔道具は半径50メートルを火の海にするやべぇやつだ。分かったなら全員地面に手をつけ」

 護衛の出番だね。マリアに良いところを見せるチャンスと言えなくもない。


「はやくしやがれ。いいか、空に向けて起動してやるから目ん玉おっぴろげてよく見てろよ」

 男の持つ魔道具から火の柱が天に向かって噴きあがった。なかなかの威力だな。

 男までの距離は約30メートル。この距離なら、あの魔道具を起動した瞬間にマジックガードを発動すれば十分に間に合うね。


「おい、お前らも突っ立ってないで地面に手をつけろ。この火はそこまで余裕で届くぞ」

 僕たちに言ってるようだ。でも僕もマリアもルーシーも全員平然としている。

 僕は携帯型防御結界装置を起動してから男に近づいていく。これはスイッチを入れていれば常時展開なので、とっさの事態にも対応できるだろう。


 男との距離が5メートルほどになり会話を試みる。とりあえず目的を聞いてみたが、答えてはくれないようだ。

「けっ、どっか良いところのボンボンか。美女2人を連れて良いご身分だな。この魔道具を起動したらお前ら全員黒焦(くろこ)げだってことが分かってんのか?」

 マリアの作ったこの魔道具の結界、抜けるものなら抜いてみろ。まず不可能だけどね。


 誰かが通報したのだろう。警吏が男の後方からやってきて声をかけたその瞬間、(おそらく意図したわけではないだろうが)男が魔道具のスイッチを押してしまったようだ。

 迫りくる炎。僕は平然とそれを見つめる。

 すぐ目の前で結界に(はば)まれ、炎が消滅した。マリア、この結界装置、素晴らしい性能だよ。


 警吏に拘束された男とともに詰所の取調室に入った僕たちは、警吏の男に対する尋問の様子を傍観しつつ、時々口をはさんだりした。

 この男、驚いたことに魔道具職人だった。

 身勝手な理由で街を騒がせたことについては、きっちり罪を(つぐな)ってもらわなければならないけど、マリアが魔道具工房への勧誘を行ったのは僕も納得の行為だったよ。なにしろ職人が足らないからね。


 それにしてもマリアと一緒にいると、なにかしらトラブルが起きるよね。あれ?まさか僕がトラブルメーカーなのかな?いや、まさか。


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