011 アレン・フォン・リヴァストの回想②
シュトレーゼン男爵家のご令嬢であるマリアをお茶会に招待した。
男爵夫人のメアリ様と一緒に訪れたマリアは、豪華なドレスではなく清楚なワンピースを着ていて、これはこれで超可愛い。
髪もアップではなく、自然に下ろしていて風になびいている。天使か?
「マリアさん、こちらへどうぞ。今日はお茶会といっても僕と二人きりなので、緊張しないで大丈夫ですよ」
マリアの目が微動だにせず僕を見据える。あれ?なんだろ、これ。ジト目ってやつ?
「ねぇマリアさん、僕、魔法を勉強してるんだ。見せてあげようか?」
内心冷や汗をかきながら、我が家の誇る裏庭の魔法訓練場へ案内した。
的を前にして、体内の魔力をしっかりと練りながら、それを右手の指先に移動する。
「水の精霊に対し奉る、我が指先から水流の噴出する奇跡を賜らんことを。ウォーターカッター」
詠唱を終えると、指先から細い水流が噴出する。
僕の得意な水の攻撃魔法だ。
とはいっても、相手へのダメージはそんなに大きくないと思うけどね。水をかけてるだけだし。
「素晴らしいですわ、アレン様」
魔法を使える人は少ないらしいので、5歳で使える僕はとても誇らしい気持ちだ。
特にマリアに褒められるとさらに嬉しい。
ところが、予想外のことが起こる。
「私ができるのは小さな火をともすくらいなので」
「指先に小さな火を灯せ。スモールファイア」
マリアの指先に蝋燭くらいの火がともった。
えっ?なんでそんなに発動が速いの?というか呪文がすごく短い!
頭が混乱してしまい、何から質問していいのやら…。
これでも侯爵家の嫡男。落ち着け、僕。
「な、なんか僕の習った詠唱と違うんだけど、誰に習ったの?」
どもってしまった。恥ずかしい。
どうやら平民の優秀な家庭教師がついているようだ。
うちの家庭教師は子爵家の令息なんだけど、侯爵家にくるだけあって彼も優秀という話なんだけどな。まさか負けてる?
それはともかく、気になるのは発動時間だ。
「魔法の発動がめちゃくちゃ速いんだけど、魔力を練る時間が短くなるような何かを習ってるの?」
問題はこれだ。僕でも魔力を練るのに5秒くらいは必要だし、うちの家庭教師でも3秒くらいかかってる。
彼女は1秒くらいで発動したように見えた。それともここに来た時から準備してた?
「魔力の移動だけはしっかり練習してますの」
てことは、事前に準備していたわけではなく、やはり高速発動したのか。
魔法は5歳から習い始めるので、マリアは僕よりも学んだ期間が一か月は短いはず。というより、お披露目会からまだ一か月くらいしかたっていない。
そんな短い期間でこれほどの練度とは…。僕も天才とよく言われるが、マリアはさらにその上をいく天才じゃないだろうか?
「僕も練習すれば速くなるかな?」
マリアはにっこりと天使の微笑みを浮かべて肯定してくれた。
よし!これからは常に魔力移動の練習をやろう。マリアの横に立てるくらいにならないとね。
それからはお茶会なのにお茶も飲まず、訓練場であれこれ会話を楽しんだり、魔法を練習したりしてすごした。
なんだろう。最初は一目ぼれした相手と仲良くしたいという気持ちだったのが、ライバルというか親友というか、そんな気持ちに変わっている自分に僕自身が驚いている。
でも、いやな気分じゃない。きっとマリアとは長い付き合いになりそうな気がする。
いや、そうなるように僕自身が頑張らねば!