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108 事情聴取

 おっさんが連れていかれた警吏の詰所(つめしょ)に私たちも一緒に連行された。こっちは被害者だよ、もう。

 本来なら一人ずつの取り調べなんだろうけど、おっさんへの尋問に立ち会う形での聴取となった。これは目撃者の証言から、私たちが喧嘩(けんか)の当事者であるという疑いが晴れたからみたい。

 それに身分が明らかになったせいもある。


 警吏の尋問担当者がおっさんに質問した。

「それでは殺人未遂事件を起こした理由を聞かせてもらおうか」

「へ?殺人未遂?なんで?俺、人を殺そうなんて…」

「目撃者がしっかり証言したぞ。魔道具から火を出して若者3人を殺そうとしたってな」

「いや、あれは手が滑って、つい誤ってスイッチを押してしまっただけで…」

「そんな言い訳通るわけなかろう。しかもお前こちらのお方をどなたと心得る?」

 先の副将軍、水戸光圀公にあらせられるぞ。一同頭が高い。控えおろう。

 …って、私の脳内で名場面が再現された。


「良いとこのボンボン、いやお坊ちゃんかなぁと思ってますが…」

「聞いて驚け。こちらのお方はリヴァスト侯爵家の嫡男アレン様だ。次期侯爵様だぞ。しかも後ろにいた女の子二人は子爵令嬢と男爵令嬢だ。貴族に対する殺人未遂、もうお前死んだな」

 尋問担当者さん、なんかノリノリっすね。楽しそうだよ。

 おっさんも絶句して言葉が出てこない。


「まあまあ、殺人の意図は無かったと思いますよ。未必(みひつ)故意(こい)はあったかもしれませんが、殺人未遂罪は厳しすぎるでしょう。ここは騒乱罪くらいで良いのではないでしょうか」

 アレンがそう言うと、おっさんは申し訳なさそうに私たちに対して謝罪した。

「貴族の皆様、大変申し訳ありませんでした。本当に魔道具を起動するつもりは無かったんです。俺の作った魔道具を世間にアピールしたかっただけなんです」

 なんと魔道具職人だったよ。


「お前の所属する魔道具工房はどこだ?」

「いえ、つい最近首になったばかりで、今は無職です。うちの工房は元々照明の魔道具を専門に作っていたんですが、全く売れなくなってしまい、ついには3人いた弟子のうち俺だけが解雇されました」

「なんでお前だけ首にされたんだ?」

「師匠とは魔道具に対する思想が違ったんですよ、俺だけ…。多分、煙たかったんじゃないですかね」

 あ、これはうちの魔道具の影響だな。すまん、おっさん。

 でも思想の違い?気になるな。クラレンスさんと同じタイプかもしれない。


 それから尋問は1時間くらい続いて、判明した動機は次の通りだった。

・解雇され貯金もなく、食うに困っていたため、いっそのこと牢に入れば食事と住居が確保できると思った

・魔道具を使ってその威力を見せれば、軍の関係者から声がかかるかもしれないと思った

・人を傷つけなければ大した罪にはならないと思った


 むー、おっさん甘い、甘すぎる、世の中をなめてんのか?他人に迷惑をかけてんじゃねぇよ。

 根本原因が私なだけに多少は同情すべき余地もあるけどね。

 なお、師匠との思想の違いとはクラレンスさんのように庶民に魔道具を普及させたいとかいう高尚(こうしょう)なものじゃなく、照明だけでなくもっと様々な魔道具を開発したいっていう開発方針の違いだった。

 だったら最初から師事する相手を選べよな。


 警吏に聞いたところ、この後、裁判が行われて罪状と刑罰が決まるけど、おそらく一か月程度の禁固刑くらいが妥当じゃないかのこと。

 被害者の私たちが殺人未遂を主張せず、周りへの被害も全く無かったからね。街を多少騒がしただけだ。

 あと、おっさんの名前はリヒャルトさんだった。


 最後に私からリヒャルトさんに声をかけた。

「リヒャルトさん、魔道具職人だったらクラレンスという名前を聞いたことはないかしら?」

「もちろん知ってるとも。あ、いえ知っております。今流行(はや)りの新型照明魔道具を開発した人です。俺、いえ私の解雇のそもそもの原因となった人ですね」

「恨んでる?」

「とんでもない。逆に尊敬しております。魔道具の世界に革新をもたらす人物だと思っております」

「そう。だったら出所して自由の身になったあと、シュトレーゼンの屋敷を訪ねてきてください。クラレンスさんに紹介してあげましょう」

「えええ?本当ですか?とてもありがたいお話ですが、お嬢様はどういったお方なのでしょうか?」

「私はマリアと申します。シュトレーゼン家の娘ですよ。クラレンスさんの魔道具工房はうちの屋敷の中にありますから」

「!!!」

 絶句してるね。ふふ、現時点で魔道具職人はたった一人だけ、クラレンス氏だけなんだよ。従業員は複数いるけど材料の手配や事務作業をやっているだけだ。つまりスタッフは多いけど、ラインはたった一人というアンバランスな形態だね。

 せめてもう一人、実作業のできる職人を確保したいんだけど、この業界って引き抜きが非常に難しい構造になっているんだ。だから解雇された魔道具職人は貴重なんだよ。

 もちろん素行不良で解雇された者を雇うことはないけど、そうでないなら勧誘したいんだよね。


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