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107 商店街

 今日はアレンとルーシーちゃんと私の3人で街へ遊びに出かけるよ。

 いったんうちに集まってから、そこから歩いていくのだ。うちは貴族エリアの中でも端っこで平民エリアに近いからね。

 平民っぽい服装と平民っぽく髪も結わずに長い金髪をなびかせた私は、平民には見えないアレンやルーシーちゃんと一緒にてくてく歩いている。

 やはり生粋(きっすい)のお貴族様は、変装していても高貴なオーラがただよっているよね。あれ?私は?


「いつもの中央通りではなく、西通りのほうに行きましょう。我が家のメイドの話では、西通りに新しくおしゃれなティーラウンジができたそうですの」

 ああ、お茶を楽しむ場所ね。いわゆる喫茶店。カフェと言っても良いけど、今世ではまだコーヒーを見たことが無いんだよな。あるのか?この世界に。


「いいね。中央通りと比べると少し治安に不安があるけど、僕がいるから安心して良いよ、二人とも」

 フラグか?フラグが立ったのか?いやな予感。

 剣を持ってないし、魔法を街中でぶっ放すわけにもいかないから、暴漢には体術で対処するしかないんだけど大丈夫かな?

 まぁ、いざってときはタイムストップを発動すれば良いんだけどね。


 おしゃべりを楽しみながら歩いていくと西通りの商店街に差し掛かった。

 お茶にはまだ早いので、色々なお店を見ていこう。服屋さんとかアクセサリー類を扱う小物屋さんとか楽しいよね。

 今着ている服も以前に中央通りの服屋さんで買ったものだ。

 あれが良い、これが可愛いなどルーシーちゃんと商品を見てるんだけど、アレンはというと少し後ろから周囲を警戒しているだけで私たちの会話には加わらない。なんかSPって感じだ。

 …って、アレンが一番身分が高いのにボディーガードのまねごとをさせてるよ。良いのか?これ。と言いつつ、これはいつものことだったりする。


 ある店から出たちょうどそのとき、通りに大声が響いた。

「お前ら、動くな。誰も動くんじゃねぇぞ。動いたらこの魔道具を起動するからな。いいか、この魔道具は半径50メートルを火の海にするやべぇやつだ。分かったなら全員地面に手をつけ」

 ん?酔っ払いか?いや、違うな。強盗かな?はたまたテロリストかな?

 通りにいる通行人はみんなとまどっている。そりゃ本物の魔道具とは思わないよね。


「はやくしやがれ。いいか、空に向けて起動してやるから目ん玉おっぴろげてよく見てろよ」

 男の持つ魔道具から垂直方向、つまり上に向かって火柱が立ち上った。火炎放射器かよ。

 あわてて通行人たちが地面に伏せて、頭を手で押さえている。私たちの前まで視界が開けて、テロリスト野郎と目が合った。約30メートルってところか?


「おい、お前らも突っ立ってないで地面に手をつけろ。この火はそこまで余裕で届くぞ」

 なんか私たちに言ってるようだけど、手なんかつきたくない。手や服が汚れるじゃん。かわりにテロリストのもとへ歩いて近付いていく。

 どんどん近付いてくる私たち3人にテロリストはとまどっているようだ。そりゃそうだ。火炎放射器を恐れずに近付いていくなんて普通じゃない。かなりの胆力(たんりょく)が必要だ。

 通り沿いの店の中からの視線を感じる。みんな息をのんで経過を見守っているね。


 ついに5メートルまで近付いたけど、テロリストは魔道具を起動させなかった。本当に火炎放射する気はないのかもしれない。

 アレンが先頭に立ってルーシーちゃんと私をかばうようなフォーメーションになっているので、アレンが代表で問いかける。

「なんでこんなことをしているんですか?目的は何ですか?」

「けっ、どっか良いところのボンボンか。美女2人を連れて良いご身分だな。この魔道具を起動したらお前ら全員黒焦(くろこ)げだってことが分かってんのか?」

 お、美女だって、ルーシーちゃん。どうやら私もそこに入ってるみたいでちょっと嬉しい。お目が高いな、おっさん。

 横にいるルーシーちゃんと目を合わせてにっこりする。

 ちなみに『おっさん』と言っているけど、そこまで『おっさん』じゃない。20代ってことはないけど40歳には届いてないかなって感じ。


「うーん、そうですね。起動しても良いですよ。ただし、僕たち以外には向けないでくださいね」

 おっさんの指がスイッチにかかっていてプルプル震えているけど、本当にオンにすることはないだろう。そこまでの悪人には見えない。


「おい!」

 いきなりおっさんの背後から声がかけられた。警吏が到着し、制止の声をかけようとしたらしい。

 しかし、緊張の(きわ)みにいたおっさんはその声で魔道具のスイッチを押してしまった。

 魔道具から吹き伸びる火炎放射。周囲の人々が息をのむ。

 炎はアレンの直前にある見えない壁に(さえぎ)られ、霧散する。私たち3人は全くの無傷だ。


 おっさんは呆然と立ち尽くしている。起動する気が無かったのに起動してしまったこと。黒焦げになるはずの私たちが無傷であること。これらの情報を脳が処理しきれないようだ。

 警吏が背後からおっさんを拘束し、魔道具を取り上げた。

 どうやら『これにて一件落着』のようだね。誰にも被害が及ばなくて良かった。


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