103 魔道具開発④
お兄様との打ち合わせからそろそろ一か月。
魔道具開発は格段の進捗状況を見せている。魔道具協会を除名された変わり者の魔道具職人がいるんだけど、この人が全面協力してくれているのだ。名前はクラレンスさん。
除名の理由は素行不良とかじゃなく、開発方針の違いらしい。どうも金持ちのための高級品ではなく、庶民のための低価格品を目指したいという信念があるらしい。
でも協会は既得権益を守りたいから高級路線は譲れない。
機構を単純化して価格を大幅に下げた魔道具を売り出したクラレンスさんは、協会に目を付けられて販売をやめなければ除名するぞと脅されたらしい。
結局、反骨精神あふれるクラレンスさんは協会を除名処分になり、魔道具職人としての道を断たれ、パン屋さんでバイトする日々だったのをお兄様が見出したということみたい。
人に歴史ありだね。
なお、除名されても魔道具は作れるし、売っても良いんだけど、材料や部品が調達できなくなったらしい。ひどい話だ。
クラレンスさんの師匠から材料や部品を横流ししてもらえば?と思ったら、師匠さんはすでに亡くなられているとのこと。
ちなみに、魔石だけは普通に購入できるけど、これは魔道具の燃料として定期的に交換しなきゃいけないものだからね。一般人でも買えます。
うちで製品化を考えている魔道具は、内部機構がめちゃくちゃシンプルで特殊な部材と言えばミスリルくらいしかない。魔道具協会に供給停止されて困る材料は使ってないからね。
というよりも、ミスリルについてはシュトレーゼン産が市場占有率7割を超えている。ミスリルの供給においては、魔道具協会との取引材料になるくらいだ。
「嬢ちゃん、改良した魔法陣はどうなってる?はやいとこ提供してくんないかな」
この馴れ馴れしい口調のおっちゃんはクラレンスさんだ。年齢はアラフォーくらいかな。それにしても貴族令嬢相手にこのしゃべり方、別に敬意が無いってわけじゃないみたいで、私ももはや気にしていない。
「ええ、ちょうど仕上がったところですよ。かなり使用魔力量の効率化を図りましたので、魔石の交換サイクルも長くなるはずです」
燃費をよくするのは大事だもんね。
ちなみに製品化を考えているのは、まずは照明の魔道具だ。携帯型防御結界装置は基本的に軍用で、勝手に一般販売とかできない。なので、民生用の製品を第1弾として市場に投入するのだ。
照明の魔道具(魔法陣)も光量調節機能や効率化などを考えるとなかなか奥が深い。
今回の魔法陣が最終版(リリース版)となる。
魔法陣を描くのは硬く薄く軽い素材、といってもアルミやジュラルミン、プラスチックなどは存在しないので、よく知らない謎金属だった。鎧の素材などに使われているらしい。元素記号は何だろう?合金かもしれないな。
で、そこに魔法陣をインクで描くまでが私の仕事だ。
その下描きにそって液体状のミスリルを置いていくのはクラレンスさん。良かった、私の仕事じゃなくて。
それからしばらくして試作品が完成した。
開発費の償却費用は別にして、純粋な原価(材料費)は3万エントくらい。ほとんどはミスリルと魔石の価格だね。
ここに販管費(販売費及び一般管理費)、開発費用の償却分と利益などを入れても1台10万エントで販売して十分な利益が得られるようだ。前世の感覚からするとまだまだ高いけどね。
それでも今までの5分の1の値段だよ。
しかも既存品には無い光量の調節機能も付いてるし、新品の魔石で連続30時間の使用時間だったのが、この魔道具は100時間(テストしてないので推測値)だ。今までは一日一時間使って一か月で魔石を交換するというペースだったのが、なんと3倍以上に延びている。
既存品を価格だけでなく性能面でも圧倒する画期的な代物だよ。売れないわけがないね。
はっ!私ってまさか量産体制には組み込まれてないよね?研究側の人間が工場のラインに入るのはおかしいよ。頼みますよ、お兄様。