100 魔道具開発①
ミスリルのインゴットをうちに出入りしている道具屋(鍋や剣などの鉄製品を取り扱っている業者)に頼んで、薄い板状にしてもらった。
大きさは全て20センチ四方の正方形で統一。ただし、厚みは1ミリメートルの板と0.1ミリメートルの板、それに0.01ミリメートルのめちゃ薄い板、というかミスリル箔と言うべきか。金箔のミスリル版だね。
できるかどうか分からず頼むだけ頼んだけど、きちんと出来上がってきたよ、ミスリル箔。まぁ、厚み的には金沢の金箔の100倍は厚いけどね。
んで、3種類をそれぞれ5枚ずつ頼んだんだけど、インゴットはまだ8割以上残ってた。いや、2割使ったということは、これだけで2000万エント分ってことだね。高級品だよ。
ミスリルという謎金属は魔法を通す。この性質を使って魔道具を作ってみようと思う。できるかな?
厚さ1ミリメートルの板にマジックガードの魔法陣を描いてみよう。魔法陣の中のスタートアップルーチンと魔石をミスリル紐(0.01ミリメートル厚のミスリル板をハサミで切って紐状にしたもの)でつなぐ。
魔石から流れ出る魔力がスタートアップに流れれば、魔法陣が起動するんじゃないか?
うんともすんとも動かない。魔力が流れる気配もない。
魔法陣をインクで描いたけど、何か特殊なインクじゃなきゃダメなのかな?
インクの件はいったん置いといて、今度は別のミスリル板(1ミリ厚)に彫刻刀みたいな刃物で魔法陣を彫り込んでみた。普通にインクで描くのと違ってめちゃくちゃ大変なんですけど、これ!
コツコツ作業すること三日。ようやく完成した魔法陣のスタートアップと魔石をミスリル紐でつなぐ。
だ、ダメだぁ。やっぱり、何の反応もない。これだけ苦労したのになんてこった。
めちゃくちゃモチベーションが下がった私だったが、よくよく考えてみると、おかしなことに気付いた。
ミスリル板には魔力が流れるってことは、電気で言えば銅板みたいなものだ。つまり、私がやったのはプリント基板のグラウンド面にペンで回路図を描いたり、彫り込んだりしたようなものだな。そこには確かに電気が流れるけど、描かれた電子回路が動作するはずもない。もうね、あほかと馬鹿かと。
そこで私は事前の準備として、0.01ミリ厚のミスリル箔を幅1ミリメートルくらいに細く切り出していった。
長さ20センチで幅1ミリの細いミスリル紐をたくさん作ったわけだ。
そのミスリル紐を接着剤で土台となる板に貼り付けていくんだけど、台にするものは魔力を通さなければ何でも良い。作業のしやすさで考えると木材よりも鉄のほうが良いかな。
20センチ四方の鉄の板(0.1ミリ厚)を用意して、ミスリル紐を魔法陣の形に貼り付けていく。
もちろん下描きなしでは難しいので、あらかじめ白いインクで魔法陣を描いておいて、それに沿ってミスリル紐を貼っていくわけだね。面倒くさい。超面倒くさい。彫刻刀で彫った時の10倍は面倒くさい。
魔法陣の模様って円の中で個々が独立しているわけじゃなく、一筆書きのように必ず何かにつながっている。これはプログラムの順次構造のように実行される順番を表しているんだけど、見ようによっては電子回路図のようにも見える。
魔法陣って電気の代わりに魔力が流れる回路なんだよ。
だったら、この方法でうまくいくはずだ。
コツコツと細かい作業を続けること二週間。鉄板の上にミスリル紐で描かれた魔法陣が完成した。ミスリルの融点が何度なのか知らないけど、もしも量産するなら溶かした液体状のミスリルで描いていったほうが良いんじゃないかな?
さて起動テストだ。問題点を絞り込むため、魔石ではなく、私の魔力をスタートアップに流して起動してみよう。
一瞬、半透明の防御結界が現れかけてすぐに霧散した。
おぉ感動した!動かなかったけど、起動だけはしたよ。
このマジックガードの魔法陣の仕様は、目視指定した位置に横70センチ、縦2メートル、厚さ10センチの半透明防御結界を4秒間展開というものだった。
ん?目視指定?魔道具で起動する場合、展開位置は固定にしなきゃダメじゃん。
あと維持魔力量は560だけど、大半を自然魔力吸収で補っている。あれ?魔力バッファは?人間が発動する場合、その人間の身体が魔力バッファになるわけだけど、魔道具ではどうする?バッファメモリの機構が無いじゃん。
あと、展開時間指定は撤廃して、スイッチがオンの間は展開し続けるようにしないと…。消費魔力量は1秒間あたり140になるけど、それを全て魔石から供給するわけだね。
…って、魔法陣から作り替えないとダメだった。細いミスリルの紐を鉄板に貼り付け続けた二週間の苦労を返してくれ!




